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会社の事務椅子でレースしようぜ!「いす-1グランプリ」が熱い

世にも珍しい事務椅子を転がすレース、街の活性化を狙う

文/写真:須田 泰成  06.23.2016

キャスター付きの事務椅子に乗って2時間の耐久レースを競う、「いす-1グランプリ(GP)」。事務椅子メーカーのコクヨも加わり、尋常ではない盛り上がりを見せている。各地の商店街を刺激するほどにも育ったイベントの実態に迫る。

商店街を活性化する事務椅子のレース

「長年、お客さまとのより良いつながりを考えて提案するマーケティングの現場にいるのですが、震災をきっかけに、リアルな場で人と人が盛り上がってつながるのが大切と実感しまして、いろいろ探しているうちに、いす-1グランプリを見つけたんです」と語る黒田真吾さん。前述の通り、コクヨの社員で、日本事務いすレース協会理事を勤める。

写真右がコクヨ社員で、日本事務いすレース協会理事の黒田真吾さん。左が同じくコクヨ社員で「コクヨいす-1レーシングチーム」の監督を務める城間健市郎さん

いす-1GPは、2010年3月、京都府京田辺市の近鉄京都線新田辺駅東側にあるキララ商店街で第1回が開催された。そのアイデアは、衰退する商店街の起死回生の策として生まれた。

「全国のどこの商店街も同じですけど、やっぱり高齢化が深刻。車社会なので、ほとんどの人が買い物はショッピングモールに行く状況の中で、商店街は、どんどん衰退していく。それを何とかしようと写真屋さんが中心になって人の集まるイベントを考えていたんです」

いす-1グランプリは、そんな商店街で、「事務椅子でレースをしたらオモシロいのでは?」というアイデアから生まれた。

「小学校の時に、先生が座っているキャスター付きの事務椅子を車みたいに走らせて怒られたことがあるんです(笑)。でも、それって誰もがやった記憶があって、ワクワクすることですよね。そこが、いす-1グランプリの面白さの基本だと思うんです」と、黒田さん。

「前々から事務椅子を使ったリアルなイベントをいろいろ模索していましたが、いす-1を発見した時、これだと思いましたね」と語るのは、黒田さんと同じくコクヨ社員で「コクヨいす-1レーシングチーム」の監督を務める城間健市郎さん。監督はいわばチームの“司令塔”の役割を果たす。レース中に選手の周回タイムを取り、メンバーに作戦を指示する。

京田辺で開催されたいす-1GP第2回のポスター

2010年3月に始まったいす-1GPは周囲の人々のワクワク感に支えられて近畿、中国、東北を中心に広まり、現在では、年間12戦を全国で行う規模に育った。2016年4月には、台湾で、初めての海外レースも開催。参加希望チーム数が増えたため、「いす-2グランプリ」などバリエーションと裾野も広がっている。

「いつもは静かな商店街に人が集まり、注目度が高まるのもいいですし、全国から集まる参加者同士でヨコのつながりが生まれるのも、なかなか素敵だと思います」

見た目のインパクトが強いいす-1GPは、メディアにも取り上げられやすい。このため、開催地の商店街と参加者の人のつながりをじわじわと活性化しているのだ。

レースに最適なのは、病院用のナースチェア

コクヨの黒田さんが、いす-1GPに初めて参加したのは、2013年3月だった。

「最初は、有志による参加でした。チーム名もチーム594。594=コクヨと読めなくもないところからのスタートでした(笑)」

最初は見た目重視で、社長用の高価な椅子、頑丈なスチール椅子の2脚を伴っての参戦だった。

「最初は、軽い気持ちだったんですけど、ナメてたら、大変な目にあいました。レースが始まるとすぐに、筋肉がパンパンになり、すぐに脚がガクガクして上がらなくなりました。平坦に見える商店街でも微妙に勾配があったり、本当に難しく、あとで聞いたのは、競輪の選手でもしんどいくらいだと」

いす-1GPの痛烈な洗礼を受けた黒田さんは、早速、研究とチームづくりに力を注いだ。社内の自転車競技やサッカー経験者などに声をかけたり、椅子の開発や品質保証の部署にも専門的な知見を求めた。

病院用のナースチェア

「ショールームでいろいろな椅子に乗るうちに、病院用のナースチェアが、軽くて、高さが調整できて、使いやすいとわかりまして。あとは、同じ椅子でも4本足の椅子と5本足の椅子を乗り比べると、5本足の椅子が速いとか。キャスターも硬い床用とカーペット用がありますが、カーペット用の方が転がりがいいとか。いろんなノウハウが得られてきました」

事務椅子の走行は、地形にも大きな影響を受けることがわかってきた。

「椅子が重いと直線はスピードが出るんですけど、微妙な勾配に影響されやすいカーブはきついんです。だから、トータルで考えると軽い椅子の方が有利とわかりました」

この病院用のナースチェアは、2年間ずっと現役という椅子。16戦を走り抜いたこの椅子の走行距離は250キロを超える。その強さは24時間使用する現場用チェアということもありお墨付きだったが、期せずして、いす-1GPで証明されたというわけだ。

「そんな試験をまじめにしている会社は、世界中でうちだけでしょうね(笑)」

ピルゼンアレイ