1600社余りの社史の企画編集に関わってきた出版文化社社長・浅田厚志氏が三菱UFJビジネススクエア「SQUET」で連載しているコラム『危機に負けない長寿企業の経営に学ぶ』から、人気記事を転載する。果たして、計画的な経営の継承は可能なのか──。長寿企業と非長寿企業へのアンケートやトップ取材、社史の制作過程におけるヒアリングなどをもとに整理した結果を、このコラムで紹介していく。

果たして、計画的な経営の継承は可能なのでしょうか?
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経営承継にメソッドはあるのか

 2010年8月、エクソンモービル・ジャパンの代表者W・J・ボガティ氏に社史制作のためのインタビューをしました。その中で、1893年(明治26年)以来、日本支社を設置してきた117年の間に、代表者同士は、どのように経営を継承してきたのかを尋ねました。すると、「Nothing」という答えにびっくり。先代経営者から次の経営者に引き継ぐ時に、「マニュアルのようなものはないのですか?」と食い下がると、「業務を引き継ぐための事務的な資料や手続きはあるけれど、経営のマニュアルのようなものはない」ときっぱりと答えられました。何年か一緒に働くので、それが引き継ぎのようなものということでしたが、マニュアル大国と言われる米国を代表する企業で、しかも世界最大の民間企業と言われるエクソンモービルでもないのか、と少々、味気ない思いがしたものでした。

 先代経営者と次代の経営者が一緒に働く期間を設けるのは、計画的な経営継承のひとつですが、問題はその内容について、規定もマニュアルもない点で、先代経営者が必要と思うことだけが引き継がれます。

 「ふ〜ん、それであの巨大なエクソンモービル・ジャパンの経営が引き継げるのか……」。不思議に思うのは筆者だけでしょうか。

 筆者は1984年に出版社を創業し、現在38年目。いま、10歳以上年下の世代に、会社を引き継いでいる最中で、あと2年で社長ポストから降りる予定です。引退するときに備えて、2009年から青山学院大学大学院修士・博士課程で学び、同大学の総合研究所で客員研究員として3年を過ごしました。65歳で経営を継承する計画をたてて、8年かけて準備を進めてきました。よって大企業と長寿企業(筆者注:100年以上経営されている企業)には、それなりの経営継承のメソッドがあるものと期待していただけに、ボガティ氏のお話には肩すかしを食らったようでした。

 果たして、計画的な経営の継承は可能なのでしょうか? その答えを求めて、長寿企業と非長寿企業へのアンケートやトップ取材、そして社史の制作過程におけるヒアリングをしてきました。それをこの連載の場を借りて、整理して、お伝えしたいと考えています。

ライフサイクルを逆算する

 帝国データバンクによると、中小企業の後継者不在率は65.1%で、60歳以上の経営者の50%超が将来の廃業を考えている、という調査結果が出ています(2020年11月30日、全国企業「後継者不在率」動向調査)。この数字には胸が詰まる思いがしますが、概算すると、2/3の企業は将来に廃業するか、後継者不在により経営を終えることになります。経営の継承を考えるのは残りの1/3の企業です。

 これ自体が大問題だと思いますが、それはさておいて、経営の継承を考えるには、2つの観点があります。企業・製品・商品・サービスのライフサイクルと、経営者個人のライフサイクルです。

 起業する人の平均年齢は43歳といわれ(日本政策金融公庫総合研究所調べ)、経営者が会社から離れるのは平均で70歳前後といわれます。その年齢をもとに経営者と企業のライフサイクルを考えてみると、結婚して子供が35歳前後にできているとすると、経営者が60歳になるまでには子供は大学をなんとか卒業する年齢になっています。還暦を迎えて、気力、体力が落ちてきて、仕事と経営の生産性が下降する頃に、会社は起業から30年に近づいていきます。

 製品、商品、サービスの勃興から衰退の期間は30年といわれます。43歳で起業すると73歳の時に、衰退期の最後を迎えており、ほぼその年齢で創業者は会社から離れる、または廃業、倒産する、という計算になります。つまり、多くの企業は創業者がつくって、自ら潰して終わるのです。そうならないためには、どうすればよいのか──。ここで計画的な経営の継承が必要と筆者が述べるゆえんです。