1600社余りの社史の企画編集に関わってきた出版文化社社長・浅田厚志氏が三菱UFJビジネススクエア「SQUET」で連載しているコラム『危機に負けない長寿企業の経営に学ぶ』から、人気記事を転載する。今回は、これまで調査対象としてきた長寿企業(328社)は、過去の成功例と失敗例をどのように扱ってきたのかを検証していきます。

「失敗」よりも「成功」を受け継げ
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長寿企業の経営メソッドのひとつ

 2000年に出版された畑村洋太郎著『失敗学のすすめ』は、心配性の日本人の心理を突いてベストセラーになり、失敗を考察する数々の単行本に先鞭(せんべん)をつけました。企業論や組織論では、「失敗の研究」や「失敗に学ぼう」とよくいわれます。それらは減点主義が多い日本企業に、失敗を許さない組織風土があることから受け入れられてきたのでしょう。それでは筆者が調査対象とし、平均144年生き永らえてきた長寿企業(328社)は過去の成功例と失敗例をどのように扱っているのでしょうか。

 まず、成功例を「共有してきた」のは18%で、「やや共有してきた」は48%、合計66%となりました。成功例は失敗例に比べると共有しやすいし、成功者もそれを吹聴するでしょう。また、そのための仕組み、制度がなくても共有されやすいです。

成功事例の共有比率
成功事例の共有比率
(単位:%、小数点以下は四捨五入/出所:出版文化社)

 一方、失敗例を共有するのは、経営者が意識して、自らまたは社員の失敗例を明らかにし、共有することを指示するか、仕組みをつくっておかないとできません。

 よって両者には大きな差がつくのではと思っていましたが、失敗例は「共有してきた」が15%、「やや共有してきた」が46%と、成功例について尋ねたそれぞれの項目と比較して大きな差は見られませんでした。

失敗事例の共有比率
失敗事例の共有比率
(単位:%、小数点以下は四捨五入/出所:出版文化社)

 合計でも成功例を「共有してきた」「やや共有してきた」が66%、失敗例を「共有してきた」「やや共有してきた」が61%ですから、有意な差異ではありません。これは何を示しているかというと、「共有してきた」と明確に答えられる企業は、全体の中で決して多くはありませんが、「やや共有してきた」では5割近くになります。この「やや」というのは共有する内容を取捨選択してきたということでしょうから、成功例だけではなく、必要と思われる失敗事例は、社員と共有してきたのでしょう。

 長寿企業は決して、企業の発展に重点を置いているわけではないので、失敗例にもしっかり学んで、小さな失敗は置いておき、経営に禍根を残すような大きな失敗を未然に防ぐことに注力してきたと思われます。

 今回調査した328社の長寿企業では、歴代経営者の80%は同族者であり、取締役の過半数も同族者、また、株式の76%を同族者が保有しています。このように経営の全権を同族者が持っているということは、成功も、失敗も共に同族者が行っている可能性が高く、それらの例を共有するのも、葬り去るのも意のままです。しかし、失敗例、成功例ともに6割以上が「共有」または「やや共有」ですから、これはまさに長寿企業の経営メソッドと呼んでよいでしょう。