日本そして日本の企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに推進していくべきなのか──。三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員の南雲岳彦氏が様々なデータを活用して提言していく本コラム。第4回は、制度や政策といった社会システムの観点からDXを国際比較する。(D-Com編集部)

どうにも遅れたDX、何が課題か何をすればよいのか(最終回)
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デジタル化を「社会システム」の観点から考える

 この連載もいよいよ今回で最終回です。初回は、日本のDXに関する国際的な立ち位置を、米国、デンマーク、スイスの欧米3カ国と、シンガポール、韓国、中国のアジア3カ国との比較を通じて説明しました。第2回は、DXの遅れが、じわじわと日本の豊かさを奪っていく状況を説明しました。そして第3回は、日本的なDX化のアプローチに関する文化的な盲点について説明しました。今回は、DX政策を含む様々な政策や制度の束を、1つの社会システムとして捉え、その国際比較からの示唆について説明します。

 まず、表1をご覧ください。これは、これまでに比較してきた国々を含む16カ国を、デジタルの領域のみならず、政治、経済、社会、環境、人材、そして幸福度やSDGs(持続可能な開発目標)のような様々な領域について、国際比較したものです。表の最上段をご覧いただくと、これらの国々を「北欧福祉国家モデル」「保守主義福祉国家モデル」「新自由主義国家モデル」「アジア主要国」という4つのグループに分類をしています。このうち、アジア主要国を除く3つのモデルは、それぞれの社会思想に基づくモデルとして知られているものです。これらのグループは、それぞれ異なる社会思想を背景に、独自の制度や政策、つまり社会システムを構成しています(より専門的には、これを「レジーム」と呼びます)。ちなみに、「アジア主要国」は、それぞれに共通の社会思想を有しているわけでないのですが、比較のために日本に地理的に近いアジアのグループとしてまとめて記載をしています。

表1:総合的な国際比較
表1:総合的な国際比較
(表内の「出典」からのデータに基づき、筆者作成)
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 この表は、縦軸に様々な国際指標を取り、横軸に各レジームとその傘下の国々を位置付けたマトリックスになっています。各セルの中には、国際指標のランキングを記載しています。トップ10を緑色、11位から50位を黄色、51位以下を赤に色づけています。そしてこれらの3色の間に位置付けられるランキングには中間色をつけています。

 このようにすると、緑色が集中するのは、フィンランド、デンマーク、スウェーデンなどの北欧福祉国家モデルの国々だということが一目瞭然です。そして、それにオランダ、スイスといった保守主義福祉国家が続きます。日本は、一部トップ10入りするものもありますが、全体的に見ればあまり旗色が良くありません。

 国はDXだけ局所的に抜きん出て優れるということはまれで、強いDXを生み出す国は、それを含む社会システムそのものが優れています。もちろん、DX力に優れていることが社会システムをさらに強化するというような循環も存在しています。政治や経済、人材やデジタルといった個々の国の要素は、お互いに補完する関係にあります。これらすべてが有機的に支え合う環境にあって初めてDXが威力を十分に発揮します。つまり、局所的にDXばかりに注目するのではなく、全体として優れた社会システムをデザインし、その中でDX力の強化を図ることが、DX力の社会経済隅々への波及効果や社会システム全体の持続的な成長を実現するために重要ではないでしょうか。

 ちなみに、このような社会システムの違いは、より専門的には図1のような政治的自由度(縦軸)と経済的自由度(横軸)散布図にすることで明確になります。縦軸では、上に行けば行くほど政治的自由度が高いことを、横軸では右に行けば行くほど経済的自由度が高いことを示します。右上に位置する米国に代表される新自由主義国家モデルは、小さな政府の下で、市場の活力を最大限に利用するモデルです。中央より少し上に位置するオランダやドイツのような欧州の国々に代表される保守主義福祉国家は、政府、産業界、労働組合などが協調しながら重要な政策を形成していくモデルです。

 これら2つのモデルの間より少し上に位置するフィンランドやデンマークに代表される北欧福祉国家モデルは、高負担・高福祉で有名です。詳しくは後述しますが、新自由主義国家モデルと保守主義福祉国家モデルのちょうど中間的で、両者の良い性質をハイブリッド的に有しています。そして最後の権威主義国家モデルは、中国やロシアのように一党支配によるモデルです。昨今、中国の急速なデジタル化や経済成長が有名ですが、権威主義国家モデルはその意思決定と実行の速度の速さが特徴だと言われています。

図1:4つのレジーム比較
図1:4つのレジーム比較
(Economist Intelligence UnitおよびThe Heritage Foundationからのデータに基づき筆者作成)
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