日本そして日本の企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに推進していくべきなのか──。三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員の南雲岳彦氏が様々なデータを活用して提言していく本コラム。第2回は、日本の労働生産性や平均賃金などの国際比較を見ながら、日本におけるDX推進の重要性を指摘する。日本は、これまでの「豊かさ」を、きちんと次世代のために維持していけるのか──。(DeCom編集部)

どうにも遅れたDX、何が課題か何をすればよいのか(2)
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DXの遅れは、じわじわと日本の豊かさを奪ってゆく

 前回は、日本のDXに関する立ち位置を、米国、デンマーク、スイスの欧米3カ国と、シンガポール、韓国、中国のアジア3カ国との比較を通じて説明しました。日本は、少子高齢化の歴史的な流れにあって持続的な経済成長を実現するための切り札として、そして足元ではコロナ対応の一丁目一番地としてDXを掲げています。しかし、日本のデジタル競争力は、米国、デンマーク、スイス、シンガポールといったトップランナー集団には遠く及ばず、それどころかじりじりと下降トレンドを続け、2015年には韓国に、そして2019年には中国にも抜き去られています。

 「これは由々しきこと」とばかりに、焦って処方箋を考える前に一旦立ち止まって、日本のデジタル競争力の低下が、私たちの生活にどのような影響を与えるのかを考えてみましょう。DXの遅れについて、複雑さを避けてあえてストレートに言えば、これは、日本の労働生産性が伸びないことに起因して所得(平均賃金)が増えず、じわじわと国民の経済的な豊かさが失われていくことを意味します。

 では、労働生産性に関する国際比較データ(図1)を見てみましょう。これは、米国、デンマーク、スイス、韓国、そして日本の労働生産性(労働時間当たりのGDP[国内総生産])の推移について、2015年の労働生産性を100とした場合の2019年までの推移を示しています。これを見ると、日本の労働生産性の伸びが最も低く、2019年で103.1にとどまっていることに対し、韓国は、113.9と非常に高い伸びを示しています。米国は103.9、デンマークは106.9、スイスは105.9と、韓国ほどではないにせよ、日本より伸び率を示しています。前回説明しました通り、韓国はちょうどこの期間にデジタル競争力を大きく伸ばしています。

図1:労働生産性の推移(2015年=100、2015年~2019年)
図1:労働生産性の推移(2015年=100、2015年~2019年)
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 次に、図2を見てみましょう。これは、1990年から2020年までの米国、デンマーク、スイス、韓国、そして日本の平均賃金の推移を比較したものです。2020年時点で比較をすると、米国の平均賃金は69.4千ドル、スイスは64.8千ドル、デンマークは58.4千ドルと、日本の38.5千ドルよりずっと先を行っています。韓国は2015年に日本を抜き去り、2020年には42.0千ドルに至っています。この間、日本の平均賃金は、ずっと横ばいです。日本の平均賃金は、実はバブル崩壊後はほとんど伸びず、2015年前後に国際競争力の中核となったDXが加速する頃には韓国に追い抜かれ、長期停滞が決定的になった構図を示しています。言い換えると、日本はDXの波にも乗り遅れ、じわじわと貧しくなっていくトレンドから抜け出せない状態にあります。

 最近、テレビや雑誌などで「日本は安い」という言葉を耳にしたことはありませんか? コロナが始まる前は、インバウンドの増加や中国からの旅行者による爆買いが話題になりました。これは日本が旅行地として魅力的だからということだけではなく、「日本は安いから」という理由が大きな割合を占めています。つまり、海外では所得が年々増加してく一方で、日本は所得も物価も上昇しませんので、海外から見れば日本は相対的に何でも安いということになります(逆に言うと、日本人には海外の製品やサービスがどんどん高くなっていくことを意味します)。

図2:平均賃金の推移(米ドル、1990年~2020年)
図2:平均賃金の推移(米ドル、1990年~2020年)
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