日本そして日本の企業は、デジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに推進していくべきなのか──。三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員の南雲岳彦氏が様々なデータを活用して提言していく本コラム。第3回は、DX推進に必要になる「知識」の面に着目して、日本・日本企業におけるDX推進策について考察する。(D-Com編集部)

どうにも遅れたDX、何が課題か何をすればよいのか(3)
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日本の文化的な盲点の存在を意識する

 前々回は、日本のDXに関する立ち位置を、米国、デンマーク、スイスの欧米3カ国と、シンガポール、韓国、中国のアジア3カ国との比較を通じて説明しました。そして前回は、DXの遅れが、じわじわと日本の豊かさを奪っていく状況を説明しました。今回は、DXの進め方について、これらの国々との違いを深掘りしたいと思います。

 日本のDXの遅れに関する記事やリポートは、毎日のように目に入ってきます。今回は、そのような指摘を踏まえつつも、なぜ、このような事態になったのか、日本人の文化特性や慣習を含めて考えてみたいと思います。言い換えれば、日本人が無意識に見落としているものが、あるのではないかという問題意識です。そう考えると、DX人材が足りないという短期的な、もしくは局部的なDXの遅れという事象だけに注目しても、根本的な解決の糸口は見えてこないのではないかという発想に至ります。つまり、より深い構造的な課題に目を向けなければ、たとえ今回のDXの課題を乗り越えても、将来、例えばSX(サステナビリティー・トランスフォーメーション)など、他の領域においても同じパターンの過ちを繰り返してしまう可能性があるのではないでしょうか。

 今回は、第1回で紹介した世界経営開発研究所(IMD)の世界デジタル競争力ランキング(IMD World Digital Competitiveness Ranking)の内訳に注目してみましょう。このランキングは、デジタル化に関する①「知識」(Knowledge)、②「技術」(Technology)、そして③「将来に向けた準備状況」(Future Readiness)という3つの要素から構成されています。日本の総合ランキングは、27位ですが、「知識」では22位、「技術」では26位、そして「将来に向けた準備状況」では26位です。そして、これらをさらに詳しく見ていくと、それぞれ日本には大きな課題があることが見えてきます。今回は、そのうちの「知識」に注目してみます。

 図1は、IMD世界デジタル競争力ランキングの内訳である「知識」の領域について、19個の構成要素のランキングをスパイダーチャートにしたものです。これを見ると、赤字で示した要素に日本の弱さがあることが一目瞭然です。

図1:IMD世界デジタル競争力ランキングにおける「知識」領域のランキング
図1:IMD世界デジタル競争力ランキングにおける「知識」領域のランキング
(出所:IMD World Digital Competitiveness Ranking 2020に基づき筆者作成)
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 時計回りに見ていくと、日本のDX人材は国際経験が低く、また高度なスキルを持つ外国人人材の登用ができていないなど、新たなDX知識の獲得窓口が狭いことが見て取れませんか? 続いて、DX人材育成のための教育投資や科学分野における大学院生数も少ないということなども見て取れます。さらには、女性の研究者の数や科学技術分野における雇用も少ないといった、DXの実践面での広がりにも遅れが感じられます。

 総じて言えば、日本は、海外のDXの知識源を巧みに活用できておらず、その一方で、DXを自前で進めようとしているものの、国内では人材育成のための公共支出や科学分野の大学院の拡充といったインフラ面の整備に改善余地があり、それが転じて、女性研究者数や科学技術分野での雇用面での伸び悩みにも影響を及ぼしているという構図が浮かび上がってきます。

 この状況を、前々回、比較した諸国のうち、デジタル競争力でトップランクを占める米国(1位)、シンガポール(2位)、デンマーク(3位)、スイス(6位)と比較をしてみましょう。各国固有の事情や背景から、それぞれの強弱に違いはありますが、前述の日本の相対的な弱さのポイントがよりはっきりと見えてくるのではないかと思います。

 日本は、経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)の「数学」では、世界5位とトップクラスでありながら、そのような優れた素養をDXの専門知識獲得や更なる高度な人材への育成、そして社会実装へとつなげていく力が弱く、言ってみればエネルギーロスが生じているように見えます。

図2:IMD世界デジタル競争力の「知識」領域のベンチマーキング
図2:IMD世界デジタル競争力の「知識」領域のベンチマーキング
(出所:IMD World Digital Competitiveness Ranking 2020に基づき筆者作成)
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