ハードルを乗り越えブランド認知向上に

 日本企業にとって参入ハードルの高さが懸念される国連調達市場だが、日高社長は比較的スムーズに進められたと話す。その理由は、アフリカで地道に積み上げてきた実績と、グローバルスタンダードな製品自体の質の高さにある。「何より役立ったのは、アフリカ市場で培ってきたビジネスの実績です。すでに実用性が証明されたビジネスの延長線上に、国連調達があったと言えるでしょう」(日高社長)。しかし、難問はその先に控えていた。一般的な市場とは異なる商慣習だ。

 「通常は需要予測から生産計画を立てて、実需に対して生産します。しかし国連調達では、突発的な伝染病の流行など有事や緊急支援の場合に急なオーダーが発生することもあります。事前に現地ネットワークからの情報を取り入れて予測しておくことはもちろん、いかに迅速な対応ができるかが勝負になります」と日高社長は語る。

 それでも、このような急なオーダーになぜ対応できるのか。同社は、連結子会社が132社あり(2021年3月時点最新情報)、約5万2,500人の社員を抱えるグローバル企業である。生産計画は厳密に決められており、急な大口オーダーは様々な事業部に影響を与えるはずだ。日高社長は「国連調達に取り組むには、会社全体のコンセンサスが重要」と指摘する。「弊社の場合、国連調達なら何とかして優先的に納入しようと、生産や開発、営業など様々な事業部がスピーディーに動いてくれます。これは、長年の積み重ねで生まれたものです」と続けた。

 もちろん、事業として営んでいる以上、利益を度外視しているわけではない。日高社長は、「国連ビジネスには収益性が伴っていますが、利益に勝るとも劣らないメリットもあります」と語る。それは、対外的なブランド価値と社内モチベーションの向上だ。

 「弊社の製品は、国連機関を通じてアフリカ全土に供給されています。それを通じ、現地の方々に、国連機関が使っているブランドであれば間違いないと認知・信頼してもらえることは非常に大きなメリットです。アフリカ諸国が経済的により豊かになったときに、市場で弊社の名前が認知されていることで、新たなビジネスのきっかけにもなるはずです。また、国連調達はSDGs(持続可能な開発目標)にも直結しています。自社の製品で社会貢献ができているということは、社員にとってもモチベーションの向上につながります。さらに、社会課題への意識が高い若者へのリクルート効果も期待できるでしょう」(日高社長)

国連調達は企業の実力が認められるフェアなビジネス

 アフリカビジネス、そして国連調達のさらなる拡大を目指す上では、製品のデリバリー網の拡充はもちろん、付随するサービス面の充実が必要だ。

 「我々は1960年代から50年以上をかけて、アフリカ各国に販売チャネルを広げ、サービスネットワークを作り、補修部品のデリバリー網を広げてきました。しかし、他の先進国に比べると、まだ強化の余地が大きいです。現地の特約店と協力しながら、3S(サービス、スペアパーツ、セールス)のレベルをさらに強化していきたいと考えています」(日高社長)

 加えて、「今後は、アフリカでもモビリティーサービスが急激に広がるでしょう。そこで、『YRA(ヤマハライディングアカデミー)』といった安全運転教室を開催し、交通安全や正しい自動二輪車の乗り方などの啓蒙活動も行うことで、新興国・途上国の産業全体が成長できるエコシステムを構築していきたいと考えています」と語る。より未来の可能性として、同社が持つ無人ヘリなども国連調達に加え、空路を使った配送も検討したいと考えているという。

 国連調達市場での成功は容易ではない。それでも企業が参入する意義はあると、日高社長は強調する。

 「これから国連調達にチャレンジする方々には、それが意義のある事業であることをお伝えしたい。一時期、安価な外国製の自動二輪車製品が市場を席巻したこともありましたが、製品のクオリティーやサポート体制の観点から、改めてヤマハ発動機を評価いただく声も増えています。 国連調達でも、製品の信頼性から利用時のフォローアップまで、すべてを評価して採用の判断をしてくれます。安易な価格競争に陥ることなく、必要な経費や原価を要求しても、品質やサービスに見合っていれば認められる。フェアなビジネスと言えるでしょう。ただし、売って終わりの商売ではありません。売った後のアフターケアも含めて、その土地に根差したビジネスを展開する覚悟が必要なことは、しっかりと認識していただきたいと思います」

D-Com会員登録のご案内

会員登録された方に、メールマガジンで新着記事、新連載のご案内、その他ビジネスに役立つお得な情報を無料でお送りします。会員限定記事も今後続々登場する予定です。ぜひご登録ください。
D-Com会員登録はこちら