国連機関等が物品やサービスを調達する「国連調達」。国連に関するビジネスはハードルが高いという印象があるが、企業が国連調達市場に参入するためには何が必要なのか。また、参入するメリットはどのような点にあるのか。まさにこれから本格的に国連調達市場の参入に挑もうとするスタートアップ企業、メロディ・インターナショナルの尾形優子社長に、参入の経緯や課題を聞いた。

UNDP(国連開発計画)ブータン提供
UNDP(国連開発計画)ブータン提供

安全な出産を支援するデバイスで新興国・途上国に進出

 香川県に本社を置き、妊婦の遠隔健診事業を営むメロディ・インターナショナル。「世界中のお母さんに、安心・安全な出産を!」という理念を掲げ、IoT型胎児モニター「分娩監視装置 iCTG(以下、iCTG)」、そして医師と患者のコミュニケーションプラットフォーム「Melody i」を提供している。

 「iCTG」は、腹部に装着し、センサーで胎児の心拍数を計測するデバイスだ。その情報を医師が「Melody i」を通じて遠隔かつリアルタイムで確認する。これによって胎児の健康状態をチェックし、分娩のタイミングなどを予測できる。

 国内に先駆けて、同社の製品が最初に注目されたのはタイだった。きっかけは、製品開発に協力した香川大学とタイのチェンマイ大学との国際協力だ。それを縁に、香川県とJICA(国際協力機構)が主導した「草の根技術協力事業」へ参画し、「タイにおける妊産婦管理及び糖尿病のためのICT遠隔医療支援プロジェクト」に採用された。プロジェクト開始からわずか半年で取得した胎児のデータは1500例。妊産婦の健康管理に貢献した成果が認められ、タイ政府から「Best Public Service Award 2017」を受賞した。

 この経験が、同社の製品開発とグローバル展開の大きな原動力になった。その後、欧州で開催された学会でタイの事例を発表したところ、JICAを通じて南アフリカ共和国から引き合いがあった。さらに経済産業省による技術協力活用型・新興国市場開拓事業費補助金制度の「飛びだせJapan!」プロジェクトにも採用が決まった。

 どのようなニーズから同社製品が受け入れられていったのだろうか。尾形社長は「新興国・途上国では、妊産婦死亡率、周産期死亡率が高く、妊娠22週から出生後7日未満までの周産期医療体制を強化することが喫緊の課題です。『iCTG』と『Melody i』を活用いただくことで、医療アクセスが悪い地域でも妊婦や胎児の異変を早期に把握し、設備が整った病院へ妊婦を搬送する体制の構築を目指しています」と話す。

メロディ・インターナショナル Founder & CEO 尾形優子氏
メロディ・インターナショナル Founder & CEO 尾形優子氏

ブータンでUNDP案件に採用され、国連調達へ着目

 タイやアフリカで着実に実績を積んだメロディ・インターナショナル。その取り組みがブータンでの大きな成果へとつながった。ブータン王妃が懐妊した際に、「iCTG」と「Melody i」を利用したのだ。

 「ブータン王立病院に小児科医として9年間尽力してきた日本人医師の推薦や、現地での地道なネットワーク構築の成果もあり、『iCTG』を使用していただけました。また、『iCTG』の前身「モバイルCTG(トーイツ)」で、皇后さまや秋篠宮妃紀子さまが胎児管理をされていたことも『iCTG』への信頼につながったのだと思います」と尾形社長は語る。

 この出来事が国連調達に携わるきっかけとなり、その後、同製品はUNDP(国連開発計画)とブータン政府が実施した「Innovation for a Smarter, Greener and More Resilient 21st Century Bhutan」プロジェクトに、随意契約で採用された。現地の王立病院および保健省と連携し、同国内20地区へ「iCTG」を55台納入し、遠隔胎児モニタリングシステムの運用を開始。現在も国土全体をカバーする周産期リファラルネットワークの構築に尽力している。

 「ブータンは、ヒマラヤ山脈に隣接する山岳国家です。首都のティンプーは標高約2300m、高地の山間部にも集落が多く、出産設備の整った大きな病院に、ランドクルーザーで妊婦を搬送する場合もあり、緊急時には多くの困難を伴います。『iCTG』と『Melody i』を使うことで、出産の兆候を早めに察知し、余裕を持って搬送する周産期医療体制を築きたいです」(尾形社長)

 プロジェクトは順調に進行する一方、この先の本格的な国連調達市場参入を見据える上で、いくつか課題も見えてきたという。

2021年6月、JICAブータンとUNDPブータンより、ブータン保健省へ「分娩監視装置 iCTG」を納入。引き渡し式をオンラインにて実施した
2021年6月、JICAブータンとUNDPブータンより、ブータン保健省へ「分娩監視装置 iCTG」を納入。引き渡し式をオンラインにて実施した