企業における人事マネジメントの変革の要となる最高人事責任者(CHRO)には、“志(こころざし)”と“正しい現状把握”が求められます。以下では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 組織人事ビジネスユニットHR第1部の小池陽二郎が、多くのCHROが直面する人事マネジメントの課題に関する潮流をお伝えします。

戦略人事マネジメントの要、人事最高責任者(CHRO)の新潮流
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インプットは抑えてアウトプットを上げよ!
以前の議論の中心は、総額人件費は増やさずに、いかに生産性を上げるか

 私は、2001年に大学卒業後すぐにこの仕事に就き、これまで20年間で400件以上のコンサルティングプロジェクトに従事しました。近年は東証1部企業を中心に人事戦略に関するコンサルティングを、クライアントにおける人事最高責任者(CHRO)の皆様へご提供しています。

 駆け出しの頃の人事戦略プロジェクトは、景気の長期低迷に伴う財務状況・企業業績の悪化を受け、労働条件の不利益変更を伴うものがほとんどでした。多くの業界・企業における先行き見通しの厳しさも相まって、総額人件費は人事制度の変更前後で減額または同額が当たり前とされていました。成果主義などと銘打ったプランを導入し社内の競争を強め生産性を上げる、財務的な成果や意識調査などにより効果を検証する、こうした取り組みを進めていました。

 03年から、過重労働への抜本対応として全国の労働基準監督署において賃金未払い残業撲滅に関する重点取り組みが始まり今日まで続いています。2000年代初頭、私は、師事するコンサルタントの下、監督署から是正勧告などを受けたクライアントにおける人事改革を集中的に取り組んでいました。

 企業価値を維持するためには、順法化を掲げつつも、顧客や社員をはじめとした利害関係者を守るために、利益を持続的に捻出することが必要です。単純に順法化するだけでは中長期にわたりコストがかかり過ぎる。ビジネスモデルの転換などの付加価値向上に向けた本質的議論は中長期課題として整理し、将来的な業績改善時における人件費アップの余白を持ちつつも、即時対応策として法律知識を駆使し増額幅を極力圧縮するプランの策定・提案・実行を支援していました。

 順法化をはじめとして総額人件費アップをクライアント経営者へご提案する際は、短期的な企業業績は圧縮されてしまうとしても長期的な企業価値にはきっとつながっていくことを説明しご理解いただく。提案が通ることを心の底から祈り、丁寧にお願いのプレゼンをしたものです。

昨今は風向きが変化、コンサル現場では総額人件費アップの検討が活発に

 15年ごろを境に風向きは大きく変わってきています。政策誘導を追い風にしつつも、経済社会構造変化のメガトレンドを捉え、企業価値・企業業績を向上させる取り組みの一環として、官製春闘、定年延長、同一労働同一賃金、最低賃金引き上げなど、資金的な余力のある大手企業が総額人件費アップ(それもかなりの額)の施策を積極的に講じています。

 直近5年程度、私が関与するコンサルティングプロジェクトの東証1部をはじめとした大手企業の案件では、総額人件費アップがほとんどです。最近は特に顕著であり、今後5~10年分の将来人件費の試算検証を組み込んだプロジェクトが、従来は年間で数案件程度でしたが、今ではほとんどとなりました。

 数千・数万人分の精緻な将来試算が求められることから、数字に強いコンサルを配置するとともに、計算速度を上げるために大幅に処理能力が高いパソコンを設置するなどしてクライアントニーズに対応しています。

 投資家・融資家からの要請などを踏まえ、事業ポートフォリオの見直しに伴う会社分割や事業の持続性確保に向けた人件費適正化のプロジェクト、コロナ禍においては、先々の事業所閉鎖・整理解雇などのシナリオを想定しつつ、当面は解雇回避努力義務として一時帰休・賞与削減・非正規雇い止め・採用抑制・早期退職優遇制度などの合理化パッケージの設計・実行を緊密にご支援するプロジェクトなどが引き続きある一方で、コロナ禍の影響が少ない業界を中心に総額人件費アップに関する取り組みが顕著になっています。