経済の“いま”が分かる、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのエコノミストによる徹底解説コラム。今回は、日本でもすでにインフレは始まっており、これからはインフレ的な価格競争の時代に入るというお話。企業にとっては、商品の開発力に加えて、顧客に対する提案力や説明力などが重要になってくる。(D-Com編集部)

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世界で「感染」が広がるインフレ

 日本ではしつこいデフレが続いていると言われている。確かに、消費者物価は、変動の大きい生鮮食品を除いてみると、9月は1年半ぶりに上昇したとはいえ、ほぼ横ばいにとどまっている。しかし、世界を見回せばインフレが広がっている。原油をはじめ原材料価格が高騰して、米国では、消費段階でもインフレが予想以上に進み、金融政策は緩和から引き締めへの転換が検討されている。

 ところで、新型コロナと同様にインフレも「感染」する。輸入価格の上昇を介して国内物価にも上昇が広がってくる。日本だけが世界的なインフレの広がりとは無縁ということにはならない。実際、日本でも物価が上がらないのは川下の消費者物価であり、企業経営においては川上の原材料インフレにどう対応するかが、今は一番に取り組まなければいけない課題になっている。

表に出てこない日本のインフレ

 それでは、なぜ日本ではこれまでインフレの国内感染が広がりにくかったのか。まず円高による輸入インフレの緩和が挙げられる。為替が下落している国では、海外のインフレ圧力が一段と加速しながら、国内物価を押し上げる力になる。これに対して、日本では円高という水際対策がインフレ抑制効果を発揮していた。

 次に国内での感染拡大を防いだのが、原材料価格が上がっても川下の販売価格を抑えるという日本的な企業行動だ。所得が増えていない日本で、安易に価格を転嫁してしまえば、売り上げが減少するのは目に見えている。

 販売価格の上昇を抑える方策としては、まず利益の圧縮、次に安い原材料の使用、内容量の削減、そして人件費の抑制などがある。もっとも、このうち安い原材料の使用は質の低下につながることがあり、内容量の削減は単価の引き上げとなる。どちらも、たとえ販売価格が据え置かれていても、価格を引き上げていると見なすべきものだ。

 ただ、実際には、物価統計でこうした変化をきちんと把握することは難しい。日本ではインフレが起きないということではなく、水面下に潜ってしまい表に出てきていないだけのようだ。