家事代行サービス・ベアーズの高橋ゆき副社長が経営者の本音に迫る本連載。起業から16年、「働き方改革」をテーマに駆け抜けてきたワーク・ライフバランスの小室淑恵社長との対談後編では、小室社長が関わった法改正について語り合う。男性の育休取得や労働時間の上限規制はなぜ必要なのか。その実現に向け奮闘中に襲った「人生最大の危機」を小室社長はどう乗り越えたのかなどを聞いた。

小室淑恵(こむろ よしえ)氏 ワーク・ライフバランス社長/高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
写真/陶山 勉
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小室 淑恵(こむろ よしえ)氏
ワーク・ライフバランス社長
1975年東京都生まれ。日本女子大学卒業後、99年資生堂入社。2年目で社内のビジネスモデルコンテストで優勝し、育児休業者の復職支援事業を立ち上げる。2005年に退社、06年にワーク・ライフバランスを設立。残業時間の削減と業績の向上を両立させるための「働き方改革コンサルティング」を企業や自治体に提供している。講演依頼は年200回以上。

高橋ゆき氏(以下、高橋)前回、小室さんは働き方に関するいくつもの法改正に積極的に携わってきました。その1つに「育児・介護休業法」の改正があります。2022年から男性の育児休業の取得促進が企業に義務づけられますね。改めて、男性の育休取得がなぜ重要なのか、教えていただけますか。

小室淑恵氏(以下、小室)男性の育児参画は家事・育児時間の負担を公平にするという夫婦間のパワーバランスの問題ではありません。これも前回お話ししたインターバル制度と同様に命に関わる問題です。

 今、10人に1人の産婦が「産後うつ」になるといわれています。女性の産後の死因のトップは自殺です。産後うつのメカニズムは明確で、妊娠中に出ていた女性ホルモンが出産を機に出なくなることによるホルモンバランスの乱れが原因です。産後2週間から1カ月がピークで、この時期に赤ちゃんをかわいいと思えない、自分をダメな母親と思い込む、夫を攻撃してしまうといったことが起きます。

 産後うつを防ぐには、「7時間睡眠」と「朝日を浴びて散歩する」ことによってホルモンバランスを整えることが必要です。新生児は2~3時間おきに授乳が必要ですから、ワンオペ育児では7時間睡眠は絶対に無理です。夫が翌日の仕事を気にすることなく赤ちゃんを7時間見られるようにする育休が不可欠なのです。この時期に休みを取れば産後うつによる虐待などの予防にもつながると言われています。つまり、妻と子どもの2人の命を救います。

 結婚して妊娠に至るまで、夫婦の愛情度はほぼ同じレベルにあります。ところが、子どもが1歳になった頃には妻の夫に対する愛情度が低下し、夫婦間で20%もの差が出てしまいます。1歳児になるまでの1年間は、夫婦の関係にとっても重要です。ここで心が離れてしまったら、2人目も3人目も生まれません。

高橋政府は出生率をいかに上げるかと躍起になっていますが、そもそも、1人目出産後の1カ月間に夫が育児に参加した方が2人目、3人目が生まれる可能性が高まるということですね。ベアーズでも最近、育休を取り始める男性社員が増えつつあります。こういう社員に対し、組織としては何に気をつけたらいいでしょう。

小室昇進・昇格が年々積み上がる累積ポイントで左右される企業の場合、育休を取るたびに昇進・昇格が遅れてしまう問題が生じます。資生堂などは休職中も同期社員が取得した昇進・昇格ポイントの平均値をつける仕組みをつくり、この問題が起きることを防いでいます。

 また、上司から賞与などの評価を不当に低くつけられてしまうこともあります。育休を取ることで勝手に「昇進・昇格を望まない、評価を気にしない社員」と捉えられてしまう場合があります。育休取得後の不利な処遇は法律で明確に禁じられています。会社としてもそういうことが起きていないか、きちんとチェックすることが必要です。能力が十分ならば思い切って育休取得後の社員を昇進・昇格させる判断があってもいいと思います。「社員のライフを大事にする会社」ということが社員に伝わればロイヤルティーアップにもつながるでしょう。企業の経営戦略としてうまく活用していくことが大事ではないでしょうか。