家事代行サービス・ベアーズの高橋ゆき副社長が経営者の本音に迫る本連載。今回の対談相手はプラスチック加工技術をコアに、子供用運動靴「瞬足」など多彩な製品を生み出すアキレス社長の伊藤守氏だ。東日本大震災を機にスタートした防災事業への思い、世界中で加速する脱プラスチックの潮流への対応などを語ってもらった。
高橋ゆき氏(以下、高橋)アキレスの製品といえば子供用の運動靴「瞬足」がよく知られています。2、3年前、私が携わる社会貢献活動の一環で、「シングルマザー支援のために子供向けシューズの割引販売に協力していただけないか」とご相談したところ、伊藤社長は無償提供を即決してくださいました。「アキレスはシューズ事業がけん引して成長してきた会社です。シューズでいつか社会に恩送りをしたいと思っていました」とお話しくださったのがとても印象に残っています。
伊藤守氏(以下、伊藤)アキレスは過去に売上高の約3分の1を、利益の半分ほどをシューズで稼いでいた時代があります。その多くは子供向けの領域です。今、日本の子供の7人に1人は貧困の状態にあるといわれています。子供用のシューズを作ってきた会社として、苦しい状況にある家庭を支援するのは当然の使命だと考えました。
高橋シューズで知られるアキレスですが、実は建築資材、車両資材、電子材料など幅広く事業を展開していますね。
伊藤製膜、発泡、成型などのプラスチック加工技術をコアに建築・土木、電機・電子、車両、医療・防災、農業といった多様な領域で事業を推進しています。アキレスの母体は1907年の創業で、織物業から出発しました。織物とゴムなどのプラスチック素材を複合化することで新たな素材を作り、シューズや車両内装材などを手掛けてきました。海外から導入したウレタン技術でクッション材や断熱材などの素材も作っています。現在のシューズ事業の売り上げは全体の14%ほどです。
高橋今はどんな事業に力を入れていますか。
伊藤力を注ぐ領域の1つが2021年10月に立ち上げた防災事業です。レスキュー用のゴムボートやエアーテント、避難施設で使う生活用品などの開発・製造を進めています。
防災事業を立ち上げたきっかけは東日本大震災です。当社は国内のマットレス市場で高いシェアを持っています。それを知った福島県の方から、体育館に避難している被災者の方たちを支援してほしいと要請を受け、マットレス5000人分を寄贈しました。避難した方たちから「マットレスのおかげで暖かく寝ることができた」と感謝の言葉を頂き、私たちの製品がいざという時に多くの人々を守れることに気づきました。
高橋被災者に5000人分のマットレスを送る手配をした社員の方たちは会社を誇りに思ったことでしょう。日々のビジネスを追うだけでなく、人のため、社会のために貢献できる準備ができているというのは素晴らしいことです。