家事代行サービス・ベアーズの高橋ゆき副社長が経営者の本音に迫る。連載第8回の対談相手は新日本プロレスリング(東京都中野区)の大張高己代表取締役社長だ。アントニオ猪木や長州力をはじめとした人気レスラーが活躍し、一世を風靡した新日本プロレス。近年、棚橋弘至、内藤哲也、オカダ・カズチカらスター選手を抱えて女性ファンを増やしている。そんな中、新型コロナウイルス感染症の拡大に直面し、試合を中止する一方、デジタルを活用したファン拡大策など新たな取り組みを打ち出している。興行を止めた時、何を考え、ピンチをチャンスに転じるための戦略をどう講じたか。激動の1年半をありのままに語ってもらった。
(※編集部注:本対談は2021年3月9日に実施した)

大張 高己(おおばり たかみ)氏 新日本プロレスリング代表取締役社長/高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
写真/陶山 勉
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大張 高己(おおばり たかみ)氏
新日本プロレスリング代表取締役社長
1974年広島県生まれ。少年時代からバレーボール選手として活躍する。東京学芸大学を卒業、97年日本電信電話(NTT)に入社。米カリフォルニア大学アーバイン校Paul Merage School of Businessを卒業。2018年12月に執行役員としてブシロードに入社。19年1月新日本プロレス経営企画部長、11月同社米国法人 New Japan Pro-Wrestling of America Inc. CEOを経て、20年10月に新日本プロレスリング社長に就任。

高橋ゆき氏(以下、高橋)プロレスのことはほとんど知らなかったのですが、大張社長に関する過去の記事をいくつか読んでいるうちにすっかり大張社長とプロレスのファンになりました(笑)。今日はお目にかかるのを楽しみにして参りました。よろしくお願いします。

 新型コロナウイルス感染症はあらゆるビジネスに影響を及ぼしています。興行ビジネスであるプロレスは特に打撃が大きかったのではないでしょうか。

大張高己氏(以下、大張)おっしゃる通りです。2020年2月からの「コロナショック」は私のこれまでのビジネス経験の中でも最大の危機でした。

 コロナの感染が拡大し始めてから、幹部たちと、「この地域の感染状況はどうなっているか」「この大会は開けるか」と毎日議論していました。この時、20年2月26日の沖縄大会を最後に「もう無理だ。興行は中止しよう」と決断しました。プロレスはリング上で闘われる試合こそが価値創造の源泉です。その価値創造の源泉を止めるのは非常につらいことでした。高速道路を走っているクルマのエンジンをいきなり切るようなものですからね。

高橋高速道路を走っているクルマのエンジンを切って、何をしましたか。何が起こりましたか。

大張14年から「新日本プロレスワールド」という動画配信サービスを運営しています。試合を開催できない状況でもファンの心をつなぎ留めるため、同サービスを活用して「Together Project」と題し、過去の名試合の動画に選手の解説を付けてリモートで配信しました。また試合のために借りていた会場を使って、選手たちのトークショーも配信しました。

 当時、新日本プロレスワールドの会員は約10万人でしたが、興行をストップしていた4カ月間、それほど減ることなく、ほどんどの会員の方に残って頂けました。新日本プロレスは来年で創立50周年を迎えますが、その50年の歴史にも支えられたという思いです。

大張 高己(おおばり たかみ)氏 新日本プロレスリング代表取締役社長
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高橋緊急事態宣言が解除されたことを受けて、20年6月には大会を再開しましたね。厳重な感染対策を取った上で、素早い再開を実現した姿には、「何が何でもプロレスを守る」「ファンの期待に応える」という責任感や覚悟を感じます。

大張興行を止める決断をした時から、同時に再開するための条件を探るために動き出していました。スポーツ庁、医者、事業パートナーに「こういう条件なら再開できますか」と聞いて回り、作成したのが感染症対策のガイドラインです。日本ではもちろん、世界的に見てもプロレス界で最初に作ったガイドラインではないかと思います。

 当初はPCR検査を簡単に受けられる状況ではなかったので、抗体検査などによって選手、レフェリー、リングアナウンサー、トレーナーの健康状態をチェックする体制を整えました。また無観客で試合を実施するため、人がいなくても映像で映えるような会場を新たに選びました。

高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
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