五感を通した体験が人間力を養う

高橋エデュケーション(学び)とエンターテインメント(楽しさ)を組み合わせた“エデュテインメント(楽しみながら学ぶ)”というコンセプトを初めて日本に輸入したのですね。

住谷そうです。キッザニアでは、現実社会の約2/3サイズの街並みを再現した屋内空間に、実在する企業がスポンサーとなった約60のパビリオンが並んでいます。子供たちはリアルなユニホームや道具を使い、約100種類の仕事やサービスなどを体験できます。キッザニアはリピーターが大変多く、これまでの来場者は延べ2100万人を超えます。

キッザニア東京の街並み
キッザニア東京の街並み
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高橋改めてお聞きしますが、子供が職業体験することにはどのような意義があるとお考えですか。

住谷見よう見まねで楽しく職業体験する中で学べることはたくさんあります。仕事や社会と向き合う体験によって、自分の特性や向いているものなどを肌で感じ、将来の進むべき道を考えるきっかけになります。例えば「キッザニアでの体験を機に理系の学校に進むことを決めました」といった報告を頂くこともあります。

 今の日本では、受験して良い学校に行くため、小さい頃から塾に通い勉強漬けになっている子供は少なくありません。でも、社会に出て働く際には、勉強によって養われ、数値化できる「認知能力」だけでなく、数値化できない「非認知能力」が重要です。自分で課題と向き合い、考え、解決する力、仲間と協力する力、粘り強く頑張る力、思い切ってチャレンジする力などの非認知能力は様々な体験を通して養われるものです。

 キッザニアでは子供たちが、そうした非認知能力の一端を養う機会が得られます。いつもは店で買って食べているハンバーガーを自分でおいしく作ることができれば自信につながります。人と触れ合い、笑ったり泣いたり悔しい思いをしたりと、五感を通して体験することは人間力を高めます。それこそが社会に出てから通用する力になるのです。こうした人間力は紙のテストをどんなに解いても身に付きません。

キッザニア東京で消防士の仕事を体験する子供たち
キッザニア東京で消防士の仕事を体験する子供たち
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高橋自分で体感し体得したことはすべて子供たちの力になります。様々な体験を重ねることで生き抜く力を養えるのですね。住谷さん自身、社会で働く上で若い頃の体験が役立ったと実感したことはありますか。

住谷前職で海外の人気レストランを幾つも日本に輸入しましたが、実は英語がそれほどできなかったのです。それでも、海外企業との一連の交渉業務をほとんど1人でこなしていました。これはまさに若い頃の体験があったからこそ可能だったと思っています。

 私は大学時代、水球部に所属していました。全日本代表メンバーに選ばれ、ユニバーシアードアジア大会で優勝したこともあります。水球は米国ではマイナースポーツです。国際試合に出場する選手に会って見ると、英語を母国語としない国の出身者ばかりです。そうした選手と宿舎などで会話する場合、お互い英語は得意ではないので、筆談や身ぶり手ぶりで会話していました。それでも言いたいことは何とか通じるものです。この時に「外国人とコミュニケーションを取るために英語がスラスラ話せる必要はない」と実感しました。

 この経験によって私のグローバルに対するハードルは低くなりました。後に海外のレストランを日本に導入する際、ひるむ気持ちも多少あったものの、「何とかなるだろう」という楽観的な思いの方が強かった。やはり水球を通した海外体験があったから挑戦できたのです。

高橋若い頃に水球を通して国際交流をした経験が、後にビジネスの領域で一歩を踏み出す際の後押しになったのですね。そう考えると、自分の体験を自分の言葉で語れる子供たちが増えていくことは本当に重要ですね。

住谷もちろん勉強で基礎学力を付けることも大事です。ただそれと同じぐらい体験が重要だと思います。若いうちに多様な体験を積んでほしいですね。

 日本の教育は何事も平均的にできる人材を育てようとします。高度成長期にはその育成方法が有効に機能しました。平均的な人材が決められた通りに正確に業務や作業をこなす。それによって、安定した品質の商品を大量に生産し、販売することで成長できたのです。でも今は多様性の時代です。平均値を取るやり方では個人も企業も国も生き抜くことはできないでしょう。