迷った時に思い出す父の言葉

高橋結局は「共感できるかどうか」ですね。一人ひとりの人生における価値観といかにマッチするか、共感率が高ければ「ここで仕事をしたい」となるのですね。

 谷田さんはコンサルティング会社などを経てタニタに入社しています。入社後は米現地法人のタニタアメリカで活躍され、08年に35歳の若さで社長に就任しました。それから13年経ちますが、その間に谷田さん自身が大きく変貌を遂げ、社長としてのアイデンティティを確立したように思うのですが、いかがですか。

谷田確かに変わったと思います。以前は理論重視でやってきましたが、それを感情論重視に転換しました。それまで、人を動かすにはロジカルに説得するのが一番だと思っていましたが、逆に感情や心こそが人を動かすのだと気づいたのです。

高橋やはり感情や心の面で配慮しなければ、相手に気持ちよく動いてもらうことは難しいですね。社長に就任してから今までにいくつもの危機に直面してきたと想像しますが、その中でも最大の危機は何でしたか。

谷田13年に子供を授かった時ですかね。妻から「あなたも育児に参加しなさい」と言われ、私も夜中に起きて3時間おきにミルクをあげていました。

 経営者は集中力の必要な仕事ですから寝不足はきつかったですね。最初の子供の時は夫婦とも慣れずに右往左往していました。「ゲップはちゃんとしたか」「突然死しないか」と怖くて、ずっとベビーベッドの横にいて、子供を見ていました(笑)。

高橋育児参画の経験は経営にどう生かされましたか。

谷田当たり前ですが、赤ちゃんにいくら理論を語っても通じません。感情や心を大事にして接することが、育児でも仕事でも大切だと思うようになりました。

高橋もしかして、その頃に理論重視から感情論重視に変化したのでしょうか。

谷田確かにそうですね。子供が原因かもしれません。子供と接する中で、それまでとは違う感覚で物事を見るようになりました。

高橋経営で大切にしていることは何ですか。

谷田経営者としての座右の銘は「1粒で2、3度おいしい」という言葉です。例えば、会社の中で問題が起きたとします。それを改善しようとする時に、1つの目的に限定してしまうと、思い描いた通りに成功するとは限らず非効率です。2つ、3つ成果が出るように目的を設定し行動するとリスクヘッジにもなるという意味で使っています。

 もう1つ、父から社長を継いだ時に言われた言葉を大切にしています。父は「経営者として悩んだ時には『自分のエゴになっていないか』『世の中のためになっているか』を考えて決めてきた」と言っていました。私自身、ロジカルに考えても結論が出ずに迷った時には、これら2つを考えて決めています。

谷田 千里(たにだ せんり)氏 タニタ 代表取締役社長/高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
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後継者にも、この言葉をそのまま伝えるつもりです。人間である以上、時に誘惑に負ける心も芽生えるかもしれません。それを抑え、世の中のためになることを進めるという方針は、次世代にも確実に継承してもらいたいと思っています。