高橋新型コロナウイルスの感染拡大以降、世界的にマスクの需要が増えて、国内では一時的に店頭で品不足になりました。そんな中、アイリスオーヤマは、マスクをいち早く日本で販売しました。こうした動きにも「ピンチがチャンス」の発想は生かされたのでしょうか。

大山そうです。日本で感染者が増えてきたとき、中国でマスクを生産している日本企業の中で、アイリスオーヤマだけ日本に出荷することができました。それは武漢で感染が広がったとき、いち早くチャイナファーストだと宣言したからです。それで半ば運よく中国政府の信頼が得られた。日本で販売しているマスクの8割は、中国で生産されています。一方で、日本企業が日本のために生産していても、今回のような事態になると日本に出荷できなくなる可能性があることが分かりました。

 そこで、私たちは日本の安心安全のためにも、日本国内でもマスクを生産する必要があると考えました。日本政府からの要請もあり、2月から準備を開始。倉庫として使用していた角田工場の2階をクリーンルームにつくり替えて、4月から工場を稼働させています。

 短期間で準備できた理由は、2つあります。1つは、私たちはオーナー企業で経営にも余裕があり、即断・即決・即行が可能だったからです。もう1つは、日ごろから効率よりも、ビジネスチャンスを優先しており、設備稼働率を7割以下にとどめているからです。あえて余力を残しているからこそ、今回のような大きな需要の変化があったとき、チャンスを逃さず対応できる。だから、ピンチがビッグチャンスになったのです。そうして私には、自分がやらねば誰がやるんだという意気込みがある。思いついたら、すぐに動き出さないと気が済まない性格なんです。

アイデア創出を習慣化

高橋経営で最も大切なことは何でしょうか。

大山私が経営で大切にしていることは2つあります。その1つは事業構想です。実は学生の頃、映画監督になりたいと思っていました。その夢は実現できませんでしたが、実は事業構想は、映画づくりと同じだと気づきました。ストーリーがあって配役やカメラワーク、音楽が決まります。ストーリーが構想で、配役は商品、カメラワークはデザイン、音楽は販促。「何のために、どうやるか」という構想がなければ、経営も映画も成り立ちません。

 もう1つは、「変化はチャンス」と信じることです。経済は生き物で、常に変化しているからです。ただ、ほとんどの人は、変化を嫌がります。現状維持を好む人がとても多い。当社は比較的人事異動が多くて若い人にも仕事をどんどん任せます。海外に行く機会も多い。変化を受け入れてチャレンジする文化があります。そもそも、変化がなければ、零細企業はずっと零細なままです。それでは夢が持てません。世の中の変化に合わせて、お客様のニーズに応えるから成長できるのです。

高橋確かにその通りですね。経営者が変化に対応し、これをチャンスに変えるにはどうしたらよいのでしょうか。

大山先述したプラス思考の習慣化と合わせて、アイデアを生み出すことを「習慣化する」ことが大事だと思います。私の講演を聴いたり、本を読んだりした方々から、「とても感銘を受けた。私も行動します」と言われることがあります。とても素晴らしいのですが、問題となるのは持続できるかどうかです。自分で決めたことを習慣化して、本質を見いだすまでやり続けることができるか。場当たり的では、結局何も残らないですからね。

 例えば、ユーザーインの商品開発の習慣化は、エンドユーザーの満足を常に考えることで可能になります。そうすると、必ずどこかで商品のアイデアがひらめくようになります。私は朝晩、ウオーキングをしているのですが、それも習慣化のひとつです。歩くと前頭前野が活性化されて、気づくと色々アイデアが浮かんできます。

アイリスオーヤマ大山健太郎会長「変化がビッグチャンス」
写真/阿部勝弥
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大山私は、メモはとらずに記憶します。これも子どもの頃からの習慣です。最初にお話ししたとおり、私は8人きょうだいで家も狭く、弟や妹たちの面倒も見ていたので、宿題をする場所も時間もなかった。家で復習ができないから、授業で覚えたことはその場でしっかり記憶して、頭の中で反復します。それが習慣化していたので、宿題をやっていなくても、授業中に考えて答えられました。そんなふうに、できるだけ頭の中で整理するようになりました。メモやノートを取ることが目的になっている人が多いようですが、ノートを見返して考える習慣をつけないと意味がありません。

高橋2年前にご子息である大山晃弘さんが社長に就任されました。会長と社長はどのように役割分担しているのですか。

大山私は商品開発にはノータッチです。ただ、方向性となる「川の流れ」は私が決めています。川で育てる水草や泳がせる魚は、みんなで決めなさいというスタンスです。最終的に判断するのは社長です。そして私が手掛けているのは新規事業です。新規事業は、キャリアを積んで多くの引き出しを持っている人が適しているからです。それ以外は、社長に全て任せています。マネジメントや事業計画も社長が担当しており、私は口を出しません。

高橋これまで感銘を受けた方とか、尊敬されている人はいらっしゃいますか。

大山それが、いないのですよ。19歳から、ひとりで白いキャンバスに絵を描くように経営をしてきました。誰かの背中を追いかけたことがありません。だから、異質の会社で、よく「常識とは真逆の経営」と言われたりもします。自己流で、供給者目線で考えたり、購入者目線で考えたり、その先の使い手である生活者目線で考えたりしてきました。

 創業者は、何もないところから道を切り開いてはい上がってきます。そして、開発からものづくり、営業、マネジメントまで全てを経験します。全体を見ながら物事を判断できるので、課題の解決策を比較的簡単に見つけ出せる。だから、即断即決が可能です。ニューノーマルとなった今、私たちがやるべきことは、まずは目の前にある課題を解決していくことだと考えています。新しいビジネスチャンスがあれば、私たちはすぐに行動に移します。

対談後記(Yuki’s EYE)

 大山会長とはニュービジネス協議会の活動を通じ、10年以上にわたり近くで学ばせていただいております。今回、目を見てじっくり対話するなかで、金言の源には、暮らしを豊かにしていこうというデザイン思考の実践があることに改めて気づかされました。

 これからのビジネスにはアートやデザインに似た思考でユーザーの感性に訴求すること、さらにはユーザーインでひらめいたアイデアを迅速に商品化していくことの大切さを教えていただきました。コロナ禍、多くの人がアイリスオーヤマの日本製マスクに助けられたことでしょう。私もそのうちの1人です。本日はありがとうございました。

文・構成/西山 薫

高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
写真/阿部勝弥
高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏
ベアーズ 取締役副社長
1969年生まれ。1男1女の母。夫の高橋健志氏とともに家事代行サービスのベアーズを99年に創業。家事代行、ハウスクリーニング、ベビー&キッズシッターサービスを展開、業界のリーディングカンパニーに育て上げる。業界の成長と発展を目指し、2013年一般社団法人全国家事代行サービス協会を設立。設立当初から副会長を務め、19年から会長に就任。経営者として、一般社団法人東京ニュービジネス協議会副会長、東京きらぼしフィナンシャルグループ社外取締役を務める。各種ビジネスコンテストの審査員やビジネススクールのコメンテーターを務め、家事研究家、日本の暮らし方研究家としてもテレビ・雑誌などで幅広く活躍。
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