楽天・三木谷氏の手紙がきっかけに

高橋いい話ですね。経営者は、厳しい現状に直面する中でミッションを見失い、不安の塊になりがちなものです。井手さんがミッションを信じる力を持ち続けることができたのはなぜでしょう。

井手実はもう1つエピソードがあります。赤字続きのどん底の時代、社内の荷物を整理していたら、ロッカーの中から1通の手紙が出てきました。楽天の三木谷浩史社長からの手紙で、そこには「いっしょにインターネットで世界を目指しましょう」と書いてありました。

 弊社は、ECモール「楽天市場」の1期生です。三木谷さんが楽天市場をつくったのが97年5月。僕たちは同年6月に出店しました。その際受け取った手紙を保管したまま忘れていたのです。手紙を見つけた当時、楽天は既にプロ野球球団を買収するなど飛ぶ鳥を落とす勢いの会社になっていました。その創業者であり経営者である三木谷さんは今や雲の上の存在なのですが、一方で同じ年に創業し、当初は同じ土俵に乗っていたはずの僕は、傾きかけた会社で荷物整理をしている――。

 こうした状況にがくぜんとして、「なぜこんなに差が生まれたのだろう」と振り返りました。その時、思ったのが「信じ切ったかどうかの違いではないか」ということでした。三木谷さんはインターネットの可能性を信じ切った。僕は日本のビール文化を変えるクラフトビールの可能性を最初は信じていたけれど、途中から製品は売れない、赤字は続く……で信じられなくなっていました。この差だと考えたのです。

ヤッホーブルーイング井手直行社長「この難局をどう乗り越えるかにワクワクする」
写真/陶山 勉
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高橋なるほど。そこから、改めてミッションを信じ切る力を磨き続けていったのですね。

井手信じ切るというより、言い聞かせました。「日本のビール文化にこういう味を根付かせるぞ!」「おまえがやるんだ、分かったか、井手!」みたいな感じです。今思うと、星野・三木谷という日本のビジネス界のリーダー2人の力を借りて、やっとのことで踏みとどまった格好です。

高橋星野さんと三木谷さんのハイブリッドですね。それはすごい(笑)。

井手再起のために、まず注力したのがインターネット通販です。本来、ビールには人を幸せにする力がある。でもそのビールを届ける人たちが不幸のどん底にいたら、人を幸せにすることなんてできませから、まずは会社の業績をよくすることが大事だと考えました。そこで開店休業状態だった楽天市場での販売を本格的に始動しました。

 幸い、ネット通販の業績は上がりましたが、でもそれは一部の社員が奮闘した結果。その社員はやっぱり不幸なままでした。そこで2008年に僕が社長になってから、「1人、2人の社員ががんばるだけではダメだ。みんなで力を合わせなくては会社の将来はない」とチームづくりに取り組むようになりました。というのも評判の良かったチームビルディングの研修に参加したところ、「これはすごい。みんなで力を合わせれば、こんなことができるんだ」と人生観が180度変わるぐらいの衝撃を受けまして。僕自身が講師となり、社内で自分が受けたチームビルディングの研修を見よう見まねでやり始めました。

 当初は反発もあり、混乱してますます人が辞めましたが、「これをやるしかない」と突き進みました。3年ぐらい続けるうちに社内の雰囲気が少し変わり、チームの成果が出るようになりました。その頃から業績も伸び始めたのです。