物事は無色、常にポジティブにマインドを保つ

高橋そうして業績が右肩上がりになり、今のヤッホーブルーイングの社風も醸成されていったのですね。その後、2014年にヤッホーブルーイングはキリンビールと資本業務提携しています。独立系のビールメーカーが、業界大手と手を組むことに迷いはありませんでしたか。

井手迷いも葛藤もありました。僕のヤッホー人生の中で最も大きい決断の1つです。社員の中でも多くの反対意見がありました。「大手がやれないことを僕らがやるんだ」という、反骨心を持つメンバーもいましたから。その思いは僕もよく分かります。ただ、僕らが一番やりたいのは、バラエティー豊かなビールを提供し日本のビール文化を変えること。その当時は需要の拡大に生産が追いつかない状況でした。闇雲に自前主義を貫くのではなく、大手の生産力を借りて、1日でも早くゴールにたどり着けるよう、最短距離の道を選ぶべきじゃないかと考えました。「キリンと手を組んだらファンが離れる」と心配する社員には、外部企業に生産を委託している米アップルの「iPhone」を例に出し、「コンセプトやポリシーがしっかりあれば、実際にモノをつくるのが誰かは関係ない」と説明しました。すごく時間がかかりましたけど、今は社員も納得し、「提携して良かった」と言っています。

ヤッホーブルーイング井手直行社長「この難局をどう乗り越えるかにワクワクする」
写真/陶山 勉
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高橋井手さんの経営者としての姿勢についてお伺いします。前回のインタビューでお会いしたアイリスオーヤマの大山健太郎会長は「習慣化が重要」として、プラス思考やアイデア創出を習慣化しているとおっしゃっていました。井手さんは経営者として何か習慣化していることはありますか。

井手意識しているのは常にマインドをポジティブに保つことです。元来、僕はポジティブな性格ですが、会社がどん底の時期にはネガティブなことばかり言うようになっていました。そんな時に、チームビルディングの研修で「それはちょうどいい」という言い方を学び、それからは良くないことがあっても常に「それはちょうどいい」と言って、ポジティブに捉えるようにしています。

 例えば、クルマで通勤途中、会社の近くでパンクしてしまったとします。あと10分で会社が始まってしまう。たいていの人は「ツイていないな」とネガティブに捉える場面ですが、僕は「よし、10分でタイヤを交換するアクティビティ開始だ!」と考える。物事は常に無色。そこに色をつけるのは人です。パンクという事実は変えられないのだから、マイナスに捉えても何も良いことはありません。社長である僕がマイナス思考に陥ると、周りの人にも負のオーラを与えてしまうので、何があってもポジティブに捉えようと心がけています。

 ポジティブなマインドを持つことを習慣化した今は、何が起きても「いいじゃん」と思えます。だからコロナ禍でもネガティブになることはありませんでした。世の中の様子がすっかり変わってしまい、不安を訴えるスタッフもいましたが、僕は「もうアドレナリンが出まくっちゃうよ。この難局をどう乗り越えるか、めっちゃワクワクしてる」って言っています(笑)。

覚悟を決めてチームづくりに没頭

高橋経営者って逆境や難局が大好物ですよね。会社を経営していると安定も安泰もありません。24時間365日気を抜けなくてピリピリしています。でもため息をついたり、下を向いたり、「どうしよう」とビビってしまっていてはダメ。それで私もムダなほど明るくなりました(笑)。最後に、井手さんが経営者として最も大切にしていることを教えてください。

ヤッホーブルーイング井手直行社長「この難局をどう乗り越えるかにワクワクする」
写真/陶山 勉
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井手一番はやっぱり良い組織をつくることですね。すごく気を使っています。お金があっても、良いリーダーがいても、良い組織がつくれないと企業はうまく回りません。組織づくりは気が抜けない永遠のテーマ。終わりはありません。常に、さらに良くしたいと思っています。

高橋では、その組織づくりの肝って何でしょうか。

井手経営者のコミットだと思います。僕よりも人柄も良く能力の高い優秀な経営者は少なくありません。けれど、うちのような良い組織、良い雰囲気の会社ってそうないと思う。それは僕がどん底を経験して、「良い会社にするしかない」と覚悟を決めてチームづくりに没頭してきたからです。そのコミット具合に関しては誰にも負けない自信があります。これが一番の肝なのだろうと思います。

対談編集後記(Yuki’s EYE)

 井手社長とは数年前、あるテレビ番組で共演した際、初めてお目にかかりました。その時、「パッションのある素敵な方だな」と強く印象に残ったので今回、この対談にご登場いただきたいとお声をかけました。

 コロナ禍で経営者の心にも様々な変化が生まれています。その中で、井手社長は社員へのリスペクトを忘れず、モノづくりと同様に丁寧な“会社づくり”を続けています。オフィスで顔を合わせた社員の皆さんは、社名の通り「ヤッホー!」と声をかけたくなるような楽しく明るい雰囲気にあふれていました。井手社長が実践してきたことは今も、これからも、経営者にとって最も大事なことなのだと改めて感じさせられました。

文・構成/小林 佳代

高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏 ベアーズ 取締役副社長
写真/阿部勝弥
高橋 ゆき(たかはし ゆき)氏
ベアーズ 取締役副社長
1969年生まれ。1男1女の母。夫の高橋健志氏とともに家事代行サービスのベアーズを99年に創業。家事代行、ハウスクリーニング、ベビー&キッズシッターサービスを展開、業界のリーディングカンパニーに育て上げる。業界の成長と発展を目指し、2013年一般社団法人全国家事代行サービス協会を設立。設立当初から副会長を務め、19年から会長に就任。経営者として、一般社団法人東京ニュービジネス協議会副会長、東京きらぼしフィナンシャルグループ社外取締役を務める。各種ビジネスコンテストの審査員やビジネススクールのコメンテーターを務め、家事研究家、日本の暮らし方研究家としてもテレビ・雑誌などで幅広く活躍。
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