中小企業の経営は「攻めが2割、守りが8割」

コロナ禍やSDGsによって、経営を大きく変える必要はないということでしょうか。

 感染症拡大や地球温暖化をきっかけに、今まで見えにくかった経営課題や社会課題が見えてくる、あるいは動きが加速するという側面は考慮する必要があります。その時になって慌てるのではなく、日頃から問題意識を持ち続けてトレンドを把握し、いざというタイミングでアクセルを踏めることが大切です。

 コロナ禍によって加速するトレンドは、技術と社会という2つの軸から予想できます。技術では、非接触のためのデジタル化が進みます。デジタル技術は、複製が容易で、拡大に必要なコストはゼロに近く、送信が容易で時間空間を超えて移送できる特徴があります。デジタル技術を使った異なるシステムを組み合わせることも比較的容易です。それによって、新しい価値が生まれ、効率が上がり、ビジネスが進化していきます。

 もう一つの軸である社会では、ビジネスの前提が変わります。コロナ以前であれば、日常業務のテレワーク化はそれほど進んでいませんでした。しかし、コロナ禍という半強制的な制約が加わったことによって、会議や授業などが当たり前にオンラインに移行しました。通常であれば、技術の進歩と可能性に対して人間の対応が追いつかないのですが、危機によって対応力が高まり、ギャップが埋まったわけです。

井上 達彦(いのうえ たつひこ)氏 早稲田大学商学学術院 教授
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では、5年から10年に1回は起きている経営危機に対して、中小企業の経営者はどのように準備すればよいのでしょうか。

 大企業のような体力はなく、スタートアップのような身軽さもない中小企業にとって、激変があった場合に大切なのは守りを固めることです。ただし、普段の経営では守り一辺倒ではなく、守りを固めた上で攻めることも重要です。そのためには、複数のビジネスモデルを組み合わせて、経営のポートフォリオを構築するのです。

 経営コンサルタントの浜口隆則氏は著書『生き残る会社をつくる 「守り」の経営』(かんき出版)で、中小企業経営について「攻めは2割、守りは8割」と提言しています。つまり、中小企業の場合、既存事業に8割のリソースを投入して守りをしっかり固めつつ、残り2割を新規事業など新たな分野の開拓に回すという配分が適切という意味です。

 これについては、私も同じ考えです。中小企業は、危機的な状況を乗り越えるにはまず本業の安定が必要で、それがあることで将来の変化に対応するためのビジネスモデル構築に安心して取り組めるのです。