新型コロナ感染拡大以降の働き方や学び方について、積極的に提言をしている柳川範之東京大学経済学部教授。テレワークや副業が当たり前になりつつある今、経営者は労働環境の整備や人材育成にどのように取り組めばよいのか──。柳川教授は、社員の不公平感を減らし、優秀な人材を集めるために仕事の仕分けが必要になると語る。その上で、社員の一体感を醸成するためにも、経営者が自分の言葉で理念を語ることが重要になると指摘する。

柳川 範之(やながわ のりゆき)氏 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
写真/陶山 勉
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柳川 範之(やながわ のりゆき)氏
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1963年生まれ。高校時代をブラジルで過ごしたのち、大検を受けて慶應義塾大学経済学部通信教育課程に入学。93年、東京大学大学院博士課程修了。内閣府経済財政諮問会議有識者議員などを歴任。著書に『これからの金融がわかる本』『40歳からの企業に頼らない働き方』『東大教授が教える知的に考える練習』『管理職失格』(共著)など

新型コロナウイルスの感染拡大によって経営環境や働き方はどのように変化していくのでしょうか。

 まず、コロナ禍によって、以前から徐々に進んでいたデジタル環境の進展が加速しました。3〜4年要する変化が、3カ月で進んだともいわれます。それによって、働き方やビジネスモデルなど、すべての産業において構造から変わっていく流れになったことが大きいと思います。

 皆さん認識されているように、今の状況が収束したとしても、「Zoom」などのオンライン会議サービスを活用した仕事の仕方が普及した以上、元の環境には戻ることはなく、仕事の一部はテレワークが前提となるでしょう。

企業は新型コロナウイルスへの対応で、事業継続のためのコストが膨らむ状況にあります。その影響で、今後は物価が上がるという予測も出ていますが。

 コロナ禍の収束見通しが立たず、不確実性が高まる中で経済を回していかなければならないのですから、その点で企業経営者にとってリスクマネジメントがかなり重要になってきます。リスク分散の手段として「冗長性」を持たせる、つまり、1つ拠点が使えなくても、別の拠点で事業を継続するなどの備えておくことが挙げられます。その分、企業が負担するコストは増加することになります。

 しかし、実際の消費者物価が上がるには、もう少しマクロ環境に依存します。サプライチェーンでボトルネックが起きて、特定の原料や部品の流通量が減り、その結果としてそれらの価格が上昇するといったことはいくらでも起こります。それが一般物価に反映するまでには、いくつかの段階があります。長い期間、デフレと金融緩和が続いてきましたから、すぐに値上げが起きるとはあまり考えられません。ただし、コロナ禍の収束が長引いたり、別の大きな課題が発生して、値上げをしないと体力が持たない企業が多くなったりすると、同時多発的に値上げが起こるというシナリオも想定しておく必要があるかもしれません。

オンラインの仕事と対面の仕事の仕分けが重要

多くの企業が在宅勤務を前提とする一方、オフィスでの勤務に戻すケースも増えています。このような企業の働き方に対する対応の違いをどのようにお考えですか。

 経営者はしばらく感染リスクを見ながら、出社かテレワークかの判断をしなければならないでしょう。人がリアルに会って仕事をしたり、議論したりすることは、ビジネスではとても重要です。一方で、将来に備えて、どこまでがオンラインにより可能で、どこから対面や現場での仕事にするかを仕分けしておくことが重要な課題になります。それも、仕事量とかオフィスの収容人員といった観点だけではなく、仕事の分担の仕方、組み立て方、業務フローなどの抜本的な見直しを含みます。

 例えば、社員がある仕事を共同作業するつもりで出社しても、その作業を一緒にするはずだった別の社員が在宅勤務だと出社は無駄になります。逆にオンラインか対面の仕事かの仕分けがうまくでき仕事が回れば、生産性が向上し社員の満足度も高くなります。

 さらに、どこを自動化、省人化し、さらにAI(人工知能)を活用していくかも併せて考えていく必要があります。もっとも、すべてをリモートやAIに置き換えるのではなく、デジタル化、AI化を進めるほど、人が実際にやる作業や、人と人とのリアルなコミュニケーションが必要になるのはどんな場面なのかを考えなければなりません。