多様な視点でインプットする

なるほど。今後は柳川先生の持論である「40歳定年制」の方向にも向かうのではないでしょうか。

 40歳定年制というのは、寿命が延びて働く期間が長くなる中で、40歳前後になったら一区切りつける。そこで、一定期間を能力開発やスキル習得に充てるという提案です。40歳で企業を辞めるということではなく、その後も精力的・安定的に働くことが目的です。

 かつては一度身につけたスキルで定年まで働けましたが、環境変化が激しくなり新しい技術が出てくる中で、学び直しの必要性が高まりました。さらに、新型コロナ禍によって自分の時間が増えた一方で、将来に対する不安が増したことから、多くの人が何かを学ぼうという意欲を高めていると思います。

 今後、以前よりも求人が減り、今の企業にとどまろうと考える人もいるでしょうし、逆に、大きな転機と捉えて積極的に転職を考える人もいるでしょう。いずれにせよ、一人ひとりがその後の人生を企業任せにせず、自ら切り開こうとする意識を持ったことが、この新型コロナ禍における大きな進展だと思います。

柳川 範之(やながわ のりゆき)氏 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
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ただ、社員が新たなスキルを習得することに対して、転職による人材流出を危惧する経営者は積極的になれないかもしれません。

 スキルは、他社でも通用する汎用性のあるものと、その企業でしか通用しないものがありますが、企業が転職を恐れて自社にしか通用しないスキルしか教えず人材を囲い込むようなことをしたら優れた人材は集まらないでしょう。またそうした企業では、人材が大きく成長することはないと思います。今後は、汎用的なスキルの習得を後押しするスタンスを取る企業が、結局は人材集めと人材育成で成功すると考えられます。

 社員にとっては1人で学ぶよりは制度的に学べる仕組みがあったほうがよいですし、企業に在籍しながら学べたほうが安心なはずです。企業が、こうした学習の機会を提供するのが理想です。

学び直しは、経営者自身にとっても必要だと思います。経営者が学ぶには、どんなことに気を付けたらいいでしょうか

 これまでの経験や仕事の延長で勉強するよりは、今の自分にない多様な視点のインプットを心掛けるべきでしょう。特に、今のように環境変化が激しいときほど、対応するには柔軟な思考が必要になります。経営者は普段、自らの経営に集中していますが、そればかり考えていると思考が硬直化してしまいますから、できるだけ、日常とは違った人や情報に接し、新たな気づきを得るようにしたいものです。そうすることで、変化を捉えて臨機応変に対応する経営が可能になるはずです。

文・構成/寺島 豊

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