DXで重要なのは、緻密な提供体験の設計

中小企業がDXを推進するときの課題は何でしょうか。

 製造業を中心に課題となるのは、やはり人材の確保でしょう。サービス業では業態変革が課題となります。新しいことに取り組むには既存の社員に任せるより、外部の企業と組んだ方が効率的なことも多い。また資金面でも、中小企業などの場合は新技術を取り入れたサービスなどを自前で開発することは難しいので、外部と連携したほうが得策でしょう。

 例えば、板金組立の相川プレス工業(山梨県北杜市)では、これまで不良品の検品はベテランの職人に頼っていましたが、AI(人工知能)の技術を持つアダコテック(東京都千代田区)と共同で画像解析による検品の自動化システムを導入しました。

  これによって人材確保や技術伝承の課題を解決しただけでなく、ベテラン職人でも発見できないレベルの不良個所を検出できるようになりました。トラスコ中山の例もそうですが、DXによって現状を上回る精度や品質を実現した好例です。人間よりもパフォーマンスを高められなければ、IT化する意味はほとんどありません。

 DXを成功させるには技術導入の以前に、提供する体験を緻密に設計することが重要です。そのとき、多くのユーザーを想定するとハードルが高くなるので、まずは一部のユーザーの満足度を高めるストーリーを考える方がよいと思います。最初は対象を限定したとしても、そこで価値の高いサービスを実現すれば、SNS(交流サイト)などを通して短期間に認知される可能性があります。特に1990年代後半以降に生まれた「Z世代」と呼ばれる若いユーザーは、SNSでの評判に敏感に反応します。こうした認識を、企業経営者が持つことがDXを推進する上では何より大切です。

梅木 秀雄(うめき ひでお)氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部ココロミルラボ室長兼テクノロジー・エバンジェリスト
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DXを推進する際、ビッグデータが重要だとされていますが、大企業よりも中小企業などはその点で、不利な立場ではないでしょうか。

  新型コロナ禍に多くの人は従来とは全く異なる行動を取るようになりました。そのため、一般消費に関しては、これまで蓄積してきたデータはほとんど価値がなくなったと考えています。観光や飲食はもちろん、他の分野でも人の消費行動は大きく変わりました。コロナが収束に向かっても以前の生活スタイルに戻らない可能性が高いと思います。その場合、中小企業にありがちなデータ量の不足は、大した弱みにはなりません。

 新たなデータをどう集めるかが重要になります。繰り返しになりますが、その際データ収集を目的とする発想ではなく、「顧客を満足させるにはどのような体験を提供したらいいか」という視点でサービスを組み立てて、その延長でデータの収集や、その先のAI活用を考えることが重要です。このような視点でサービスや事業を設計することを、エクスペリエンス・データデザインと呼びます。

 さらにその先には、企業、従業員、顧客、パートナーなどそれぞれの体験をトータルに向上させ、内向きと外向きのDXがシームレスに連動することが大切になります。