日々のデジタル体験を重ね、バイアスの存在を認識することが重要

今後、DXに取り組む中小企業は何から始めればいいのでしょうか。

 肝心なのは経営者が、デジタルを活用して従来の常識にとらわれずに新しいことにチャレンジしていこうという意識を持つことです。こうした意識をデジタルマインドセットと呼びます。デジタルマインドセットを育てるために、経営者や役職者の方はまず、今の自分の日常生活で、どれだけデジタル体験があるのかを確認することから始めるとよいでしょう。デジタル体験を判定するために、以下の質問に答えてみてください。

●デジタル体験に関する質問
Q1 備忘録/メモ/予定表のいずれかをスマホやクラウドで管理している
Q2 5年前の今日(に最も近い頃に)撮影した写真を3分以内に見ることができる
Q3 友人への連絡先として、メール以外に何らかのSNSアカウントを2つ以上持っている
Q4 スマホだけで完結するキャッシュレス決済手段で3分以内に1万円を支払える
Q5 ネットでレストランの検索から席の予約までしたことがある
Q6 気になる場所やお気に入りのお店や名所の位置をスマホやクラウドで記録している
Q7 YouTubeでチャンネル登録して見ている番組が3つ以上ある
Q8 フリマアプリで出品か購買をしたことがある
Q9 フードデリバリーアプリから食品を配達してもらったことがある
Q10 配車サービスアプリから車(タクシーを含む)を呼んで乗ったことがある
Q11 製品の使い方を知るためにネット上の製品マニュアルを利用したことがある
Q12 体重や心拍などの情報を記録するデバイスやサービスを使ったことがある
Q13 先月の光熱費の合計額をいまから5分以内に確認できる
Q14 問い合わせで、担当者/ロボットとテキストチャットでやりとりしたことがある
Q15 個人所有の本や写真アルバムなどの紙媒体をデジタル化したことがある
Q16 スーパー・コンビニで自分/自動で商品をスキャンして精算したことがある
Q17 音楽や映画などのエンタメコンテンツをサブスク(月額定額契約)したことがある
Q18 外国語の文字や音声をカメラやマイクでアプリに取り込んで翻訳したことがある
Q19 マイナポータル(マイナンバーポータル)のアプリを利用している
Q20 クラウドファンディングに出資したことがある

  以上の質問のうち「はい」という答えが13~16個あれば平均的な体験度といえますが、それ以下ならデジタル体験が十分ではないため、積極的にデジタルに触れる行動を起こす必要がありそうです。例えば、ネットでレストランを予約することは、年配者でも多くが経験しているかもしれませんが、クラウドファンディングに出資したことがある人はまだ少ないのではないでしょうか。こうしたデジタルの新しい体験を積むことで、デジタルマインドセットを身に付けられます。

デジタル機器を自由に使いこなせる若い人なら可能でも、今の50代以上の年代だとデジタル体験を積むことはハードルが高いと感じるのではないでしょうか。

 デジタルマインドセットの要件は、以下の5つにまとめられます。

①慣習からの変化を恐れない
②発想の転換ができる
③自ら積極的に行動する
④自ら新しいことを生み出す
⑤短気・短絡的な判断をしない

 これらを全て満たしなさいと要求されたら、ハードルが高いと思うのは仕方がないと思います。新しいマインドセットを身に付けようとすると、どうしてもそれと反対の意識、つまり定着を阻害するバイアス(偏見)が働くものです。例えば、「新しい体験は自分には無理。時間もないし大変だ」といった言い訳もバイアスの1つです。こんな気持ちが出てきたら、「若者のデジタルについての会話に加わって、うなずける程度でも十分」と自分に言い聞かせて、要求レベルを下げてみてください。他にも、未知のもの、未体験のものを拒否しようとする「現状維持バイアス」、何かの被害が及びそうな場合でも自分だけは大丈夫と考える「正常性バイアス」、一度決断をした後は、自分に都合のいい情報ばかりを集めて、決断したことを補強・追認するような「確証バイアス」なども考えられます。これらを総称して「認知バイアス」といいます。こうした各種バイアスがあることを、認識しておくとよいでしょう。

最後に、デジタルに苦手意識を持つ経営者や役職者の方へのアドバイスをお願いします。

 まずは、自分のデジタル体験を、失敗も含めて若い人に話してみてはどうでしょう。これなら気軽にデジタル体験の幅を広げられるし、コミュニケーションのきっかけになります。また若い人が、年配者の気持ちや価値観などを理解できるので、幅広い年代を対象にした商品やサービスを開発する際にも役立ちます。大切なのは、経営者や役職者が自分の意識と行動を変えることです。その上で、若手や外部に仕事を委ねることです。環境が大きく変化する時代には、大企業よりも中小企業の方が素早く柔軟にかじを切れる面があると思います。企業を成長させるチャンスと捉えて、DXをぜひ推進してください。

梅木 秀雄(うめき ひでお)氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部ココロミルラボ室長兼テクノロジー・エバンジェリスト
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文・構成/寺島 豊

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