社員の首を切る前に己の腹を切れ

「五方良しの経営」を実践して、成功している企業の事例を教えてください。

 2020年度の「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で中小企業庁長官賞を受賞した島根電工(島根県松江市)という会社があります。同社のユニークな点は、高齢者や障がい者に優しいバリアフリー化を積極的に職場に取り入れていることです。社屋の段差を極力減らし、トイレには車椅子で回転できるだけのスペースを設けています。従業員は約400人いて、障がい者雇用率は3%と高水準です。平均給与は500万円以上と高く、離職率は1.7%と低く抑えています。また、残業が少ないうえに、月の最終金曜日は午後3時に終業します。この日には地域商店の活性や家族サービスに充てる目的で、社員に3000円を支給しています。

 同社の素晴らしさは荒木恭司社長に負うところが大きい。私は人を大切にしない経営者に対して「社員の首を切る前に己の腹を切れ」「社員を路頭に迷わすなら自分も路頭に迷いなさい」「社員だった頃の自分を忘れるな」と指導するのですが、荒木社長はまさしくこれらを実践していました。

 かつて同社が経営困難に陥ったとき、常務だった荒木氏は上司に呼ばれて社員をリストラするように言われたそうです。しかし、荒木常務はこれに対し「社員のクビを切るなら私のクビを切れ」と言っていさめたそうです。

 審査委員会特別賞を受賞したブリヂストンBRM(埼玉県加須市)は、大企業の子会社でも変わることができるという好例です。100%子会社の場合、経営者は親会社からの出向者で、数年務めて本社に戻るというケースが一般的です。そのため、経営者は本社の意向ばかり気にする傾向があります。同社の以前の経営者もそうした傾向があったようです。しかし、須藤克己社長は、「プロパーの社員がこの会社に入ってよかったと思える会社にしたい」という思いから、社員が生き生きと働ける職場づくりをテーマに次々と改革を進めました。その結果、正社員率92%、離職率1.1%、障がい者雇用率3%を実現し、「人を幸せにする会社」に生まれ変わったのです。

 これらの企業は、社員を大切にすることで生産性を高め、黒字経営を継続しています。経営者の意識と実行力によって「人を大切にする会社」をつくることができるのです。

坂本 光司(さかもと こうじ)氏
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ESG(環境・社会・企業統治)経営やSDGs(持続可能な開発目標)が改めて重要になっています。これらの考えを重視した経営を実践するために経営者に必要なことは何でしょうか。

 世界中で、株主価値よりも社会価値、業績よりも倫理を重んじる風潮になってきています。中堅・中小企業でもESGやSDGsに取り組んでほしいのですが、大企業と同じようにやるのが難しいならば、前述した「五方良しの経営」「腹八分経営」に加え、以下の5つを実践してください。

・社員第一主義:社員に無理させない、負荷をかけないでES(従業員満足)を追求する
・命と生活を守る経営:人件費はコストではなく目的と考える
・バランスの取れた経営:特定のビジネスや商品、関係先に依存しない
・社会的公器としての経営:企業を私物化しない、納税を順守、障がい者雇用など
・見えざる生産性向上の経営:生産性向上の要諦は人の心、働きがいを高め信頼される経営

 これらはいずれもまっとうな会社であるための原則です。これらをぶれずに実践してきた会社はいつの時代も生き残ってきました。経営を手段で考えるのではなく、根本にある原理原則から考えることで、これからの持続可能な会社や社会を実現する原動力になると考えています。

文・構成/寺島 豊

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