お手本は『下町ロケット』

具体的にはどんなイメージでしょうか。

 端的な例が、テレビドラマにもなった小説『下町ロケット』です。この作品に描かれた町工場は精密機械加工で発展した中小企業です。家業を継いだ2代目社長は、高い技術を必要とするロケットエンジンの分野にも進出します。しかし、大手との取引を打ち切られて経営危機に陥ります。そのとき自社技術で何ができるかを突き詰めていった結果、エンジンのバルブ技術を人工心臓の弁や農業トラクターの部品に応用していきました。これは、SDGsの17目標とは直接関係のないロケット関連の技術をSDGsの目標と直結する医療や農業といった分野へと応用したことになります。

名和 高司(なわ たかし)氏
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 実際の例では、中川政七商店(奈良市)とスノーピークが有名です。中川政七商店は、奈良晒(さらし)の問屋として約300年前に創業し、後に自社工場を持つ製造卸として事業を発展させました。また、新潟県三条市に本社を置くスノーピークは、古くから冶金産業が盛んだった地域文化を背景に58年に創業し、ピッケルなどの独自の登山用品を扱ってきました。そして両社とも近年、それぞれの強みを生かして社会課題の解決に発展させています。中川政七商店は「日本の工芸を元気にする」というビジョンの下、日本各地に埋もれている伝統品のリブランディングや地域活性化を進めています。スノーピークは「人間性の回復」をテーマに、キャンプ場の再生や地場産業との協業など自然志向やサステナビリティー(持続可能性)と関連する総合事業に取り組んでいます。

両社とも独自のコアを持ちつつ、それを生かして社会課題の解決に取り組んでいますね。

 地域社会に貢献している中小企業は他にもあります。消費者庁が実施し、私が座長を務める消費者志向経営優良事例表彰では、令和元年度(2019年度)に広沢自動車学校(徳島市)が、内閣府特命担当大臣表彰を受賞しました。同校は、自動車免許を取得させるだけではなく「命を大切にするドライバーを育む」ことを使命とし、SNSなどを活用して卒業生を細やかにフォローしています。卒業生は、同校の姿勢に誇りを持っており、乱暴な運転はしないそうです。安全運転の普及という面で地域社会に貢献しているのです。

 令和2年度(20年度)は、城北信用金庫が消費者庁長官表彰を受賞しました。同行では、身体の不調や認知症のある利用者の口座を家族が共有できる「結(ゆい)」というサービスを始めました。各店舗を地域の活動に役立てていることも評価されました。このように、中小企業でも自社の規模に見合った形で、社会や地域に対する価値を見いだせるのです。