「ワクワク」「ならでは」「できる」を重視

経営者が「志」を見いだすには、どうすればよいのでしょうか。

 「志」を見つけるときに重視すべき条件として、「ワクワク」「ならでは」「できる」の3つがあります。「ワクワク」は、その志を言葉にしたとき、社員やお客さんの気持ちがワクワクすることです。「ならでは」は、自分たちしかできないこと、この会社らしいと思えることです。「できる」は、夢を語るだけで終わらずに実現できることです。

 次に、「原点」「過去」「未来」という3つのストーリーを作成します。「原点」のストーリーでは、この会社がどうして生まれたのかを、社史を調べたり、古参社員に聞いたりして作成します。「過去」のストーリーでは、会社が経営危機に陥ったときや変革を迫られたとき、どうやって乗り越えたかを振り返ります。というのも、このときの経営者や社員の考えや行動に会社への思いが象徴的な形で表現されています。「未来」のストーリーでは、数十年先の自社の姿を描きます。例えば、ロボットが普及して人間と一緒に生活しているような未来に、自分たちがどんな事業に力を入れ、どんな商品やサービスを提供しているのかといったことを議論します。このとき参考として、SF小説を読むなどして、今とは違う世界についての想像を膨らませておくと効果的です。

 こうした作業を3カ月ぐらいかけて行うのですが、そのためのプロジェクトメンバーを選抜します。例えば、20人を4人×5グループのワークショップに分け、そこに役員や社歴の長い社員を1人ずつ配置します。若手やアルバイトスタッフなどのほか、お客さん、地域住民など多様なメンバーで構成します。

 ディスカッションの場面では、「そんなことはできない」「当社らしくない」「前例がない」といった否定的な発言は禁止です。ファシリテーター役の役員は、「そのためには何が必要か」「どうすればいいか」といった質問を投げかけて、参加者の言葉を引き出します。また、社外の意見を重視することも大切です。社外の意見に耳を傾けることで、自分たちの可能性は、自分たちが考えるよりももっと広かったり、あるいは、志や思いがずれていたりすることに気づくきっかけになります。

最後に、名和さんの持論である新SDGsについてお聞かせください。

新SDGsの概念
新SDGsの概念
「志(Purpose)」を持って、Sustainability、Digital、Globalsの3つに取り組むことが重要
[画像のクリックで拡大表示]

 企業の視点からすると国連が掲げるSDGsには、いくつかの限界があると感じています。1つは、サステナビリティーの実現と企業活動の両立の難しさです。サステナビリティーの実現は正しいことですが、それを忠実に守っているだけでは企業活動が成り立たないという現実があります。2つ目は、目標は提示されていても、それを企業価値に結びつけるための方法が盛り込まれていないことです。3つ目は、良い会社だと評価されたいという理由だけでSDGsに取り組む企業が出てきてしまうこと。4つ目は、2030年の達成目標であり緊急の課題という警鐘だとしても、企業にとって十数年という期間は短いことです。

 そこで私は従来のSDGsを超えたいという考えから「新SDGs」を提案しています。新SDGsのSは「サステナビリティー(Sustainability)」で持続可能性という意味で同じです。Dは「デジタル(Digital)」です。サステナビリティーに力を入れると、様々なコストが上昇するので利益が減ります。そのためデジタルを活用して、生産性を上げ、生産や流通に要するコストを下げる必要があります。サステナビリティーを追求すればするほど、デジタルが必要になってきます。

名和 高司(なわ たかし)氏
[画像のクリックで拡大表示]

 Gは「グローバルズ(Globals)」で、世界的な広がりを視野に入れてSとDを実行しましょうという意味です。Globalに“s”が付いている理由は、米中関係やコロナで世界は分断されてしまったので、1つの世界だけでなく横展開していきましょう、という意味を込めています。昨今注目されている「ダイバーシティ&インクルージョン」はまさしくこれに当たり、多様性を受け入れ、それらをつなぎ直すという発想が欠かせません。そのためにデジタルが重要であることは、今回のコロナ禍への対応を通して多くの人が痛感したのではないでしょうか。

 そして、SとDとGの3つの中心にあってそれぞれをつなげているのが「志(Purpose)」です。例えるなら、国連のSDGsはフィギュアスケートの規定演技です。あらゆる企業はまず規定演技を実践しなければなりません。そして新SDGsは自由演技に相当します。これからの市場で生き残っていくには、規定演技は前提として、自由演技で志を持って独自性を打ち出すことが求められます。

文・構成/寺島 豊

D-Com会員登録のご案内

会員登録された方に、メールマガジンで新着記事、新連載のご案内、その他ビジネスに役立つお得な情報を無料でお送りします。会員限定記事も今後続々登場する予定です。ぜひご登録ください。
D-Com会員登録はこちら