コロナ禍でESG投資に拍車

企業の評価軸が地球環境や持続可能性に変わってきたのは、どんな経緯からでしょうか。

 ESGは、06年に国連が責任投資原則(PRI)を宣言したことに始まります。機関投資家が企業を評価するに当たり、財務情報に加えて、環境、社会、企業統治という非財務情報を反映すべきとしたのです。

 もっとも、欧米では1920年代に宗教観を背景として社会的責任投資が生まれたという歴史があります。聖書の教えに反するたばこやギャンブル、兵器など特定分野の企業に投資することを排除するのが狙いでした。これをネガティブ・スクリーニングといいます。その後、1960年代になって、公害問題や人権問題、ベトナム戦争などへの関心が高まり、さらに、1990年代にはCSR(企業の社会的責任)経営が普及して、社会的にネガティブな活動をし、経営リスクの高い企業をふるい分ける(スクリーニング)ことが一般的となりました。その後2000年代に入り、リーマン・ショックによってESG投資が本格化しました。

 アップルの再エネ100%の要請は、環境によいことというよりも、後述する2つの理由が大きいと思います。その1つは、欧米ではすでに化石燃料より価格的にも安定した供給が受けられる再エネが定着しており、これに移行することでリスクヘッジをかけること。もう1つは、ESG投資家によるプレッシャーです。GAFA(米グーグル、米アマゾン・ドット・コム、米フェイスブック、米アップル)は今、様々な面で批判されやすいので、投資家に気を使わなければなりません。

 そして、ESG投資に拍車をかけたのがコロナ禍です。コロナ以前、投資家は基本的に企業を短期の業績で判断していたため、ESGやSDGsなどの非財務情報を公開しても株価にあまり影響がないといわれてきました。しかし、今のような先の見えない状況になると、むしろ長期的に透明性の高い情報を開示している企業のほうが投資判断には好材料になってきたのです。その結果、コロナを通じてESG企業群の株価が好調になりました。また、グリーンやサステナビリティに資金使途を限定した社債が発行され、これに投資家が好感しました。

吉高 まり(よしたか まり)氏
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それでも日本企業の場合、ESGに対する関心が低いようです。

 日本で本格的にESG投資が始まったのは、厚生年金と国民年金を管理・運用する世界最大の年金運用機関、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名した15年9月以降になります。まだ5~6年の歴史なので、一部大手上場企業以外には十分普及していませんし、現段階で中小企業の感度が低くても仕方がないでしょう。日本ではCSRは定着していますし、それ以前にもISO9000(品質マネジメントシステム)やISO14000を取得してきた経緯はあります。これらもESG経営の一環ではありますが、守りの情報にとどまっており、一方投資家は企業を選別するために、さらなる情報を求めていることが理解されていません。

 もう1つの理由として、日本企業の資金調達は間接金融、すなわち銀行からの融資中心だったことが挙げられます。銀行や関連会社が大株主であることも多く(政策保有株)、財務以外の情報を市場に開示しなくても済みました。今は、世界の資本市場に評価されるためには積極的な情報開示が求められます。また、ESG投資を進めるために政府が公表している、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の今年度再改訂された内容が大きな転機になりました。15年に最初公表されたバージョンでは、資本効率といったガバナンスが中心でしたが、21年の改訂で、サステナビリティや気候変動の開示が盛り込まれたのです。

上場企業は多少ESGに慣れてきたかもしれませんが、非上場の中小企業ではどうでしょうか。

 株式非公開だから非財務情報の開示は必要ないと考えている経営者がいるかもしれません。しかし、都市銀行であれ、地銀であれ上場していればPRIに署名した投資家から、サプライチェーン管理も評価されます。これは、金融機関自らのポートフォリオに対してリスクを管理するということです。また、銀行にも国連責任銀行原則などがあり、今、金融機関全体にサステナビリティが求められてきています。つまり、銀行自体がESG経営、SDGs経営を掲げている以上、企業に融資する際に、その企業が非上場であっても情報開示を促し、対応できなければ条件が厳しくなることも予想できるのです。特に、気候変動問題に関してはそう遠い将来ではありません。