社長自らESGやSDGsを語る意義

非財務情報を開示するには、社内外での体制整備も必要ではないでしょうか。

 サプライチェーン管理はESGのS(Social)に、社内体制構築はG(Governance)に当たります。上場企業ではESG推進室などの専門部署を置いて体制を整えます。これによって企業の本気度を内外に示すことができるからです。広報や環境部、CSR推進室などに任せきりだと見なされれば、それほど評価されません。専門部署を経営者直轄などにしたうえで、経営者が自らの言葉でESGやSDGs経営について語ることも大切です。そうすることで、投資家に対して経営の本丸でコミットすることが理解され、社員全体やサプライチェーンの先まで意気込みが伝わるからです。

 私は、様々な企業のESGに関する経営会議に呼ばれます。その際によく目にするのが、社長はESGの重要性が分かっていて、担当者も分かっている。しかし、営業本部や製造部門のトップが分かっていないというケースです。私は、この人たちに重要性を伝える役目なのですが、このような外部専門家からの指摘や同業他社比較が有効だといえるでしょう。

経営者のESGやSDGsの取り組みを主導して成功した例はありますか。

 中小企業で有名な例が大川印刷(横浜)です。印刷業務や職場環境にSDGsを取り入れるほか、難民の雇用にも取り組んでいます。この活動を最初に評価したのは外資系企業で、その後、日本の上場企業から印刷業務の注文が入るようになりました。またタオルメーカー、イケウチ・オーガニック(愛媛・今治)は社内の電力のすべてを風力発電で賄っており、同社の取り組みや製品は世界の多くの団体から表彰されています。

 ほか、途上国の子供たちも利用できるクラウド型学習システムを構築した、すららネット(東京・千代田)のようなベンチャー企業もあり、コロナ禍に市場で評価されました。

 若い世代はサステナビリティに対する関心が高いです。SDGsは昨年より義務教育に取り入れられ、高校や大学ではSDGsの授業も盛んです。その意味で彼らは「SDGsネイティブ」とも言えます。SDGsで企業を選ぶという、就職セミナーもあるほどで、「エシカル就職活動」という言葉もあります。

若い世代の関心が高いということは、ESGやSDGsの取り組みが人材採用にも有利に働くということですね。

 SDGsに取り組み、情報を開示したことで、求人への学生の応募が増えたという中小企業の例は数多くあります。また、自社がこうした取り組みに積極的だと、若い社員のモチベーションも向上します。自分の仕事とSDGsが結びつくことにより、仕事の意義を見出すからです。

 また、社内外に自社の取り組みを分かりやすく発信する方法として、独自のサステナビリティ認定制度を導入が考えられます。この制度によって、自社製品を認定するのです。その結果、認定商品の数が売り上げにどう影響するかが分かります。また、自分の仕事が直接地球環境にどれだけ影響を与えるかを把握することも可能です。社内や顧客間のコミュニケーションツールとしても役立ちます。

最後にESGとSDGsの意識を高めるために、その大きな意義を教えてください。

 もはやESGとSDGsは一過性のブームではなく、決して後戻りすることのない潮流です。先進国では少子高齢化、途上国では経済発展と人口爆発が進展し、これではどう考えてもバランスが取れません。他方、今、世界的に叫ばれているのが「ビルドバックベター」。コロナ前の状態に戻るのではなく、コロナ前以上に復興して、環境と調和したよりよい経済を創っていくという考え方です。目の前のことばかりに追われていたのでは、持続可能な社会にはなりません。松下幸之助翁が言った「会社は公器である」という言葉を思い出してください。

 今はまだ、上場企業でなければ投資家から直接プレッシャーをかけられることはありませんし、非財務情報を今すぐ開示しなければいけないという法律もありません。しかし、一部の中小企業は上場企業からの要請が来ているといいます。こうした状況をビジネスチャンスと捉え、他の中小企業に一歩先んじてESGやSDGsに取り組んでみてはいかがでしょうか。メリットは大きいと思います。

吉高 まり(よしたか まり)氏
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文・構成/寺島 豊

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