企業の競争優位戦略を研究してきた一橋ビジネススクールの楠木建教授。近年提言する「逆・タイムマシン経営論」は、コロナ感染拡大やSDGs(持続的な開発目標)への注目などを背景に、企業経営の本質に立ち返ろうという意識が高まる中で注目を集めている。同経営論の趣旨と経営への活用を聞いた。

楠木 建(くすのき けん)氏
写真/陶山 勉
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楠木 建(くすのき けん)氏
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。89年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、92年同博士課程修了。一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、イタリア・ボッコーニ大学経営大学院客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。専攻は競争戦略。著書に『逆・タイムマシン経営論 ─ 近過去の歴史に学ぶ経営知』(共著、日経BP)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(文藝春秋)など多数。

「逆・タイムマシン経営論」が話題になっています。どのようなものか、簡単にご説明ください。

 過去は確定している事実であり、未来は誰も確実には予知できません。ここに過去と未来の非対称性があります。一方、現在については、様々な言説や報道などを通して、同時代のノイズというものが影響し、意思決定を狂わせます。逆・タイムマシン経営とは高度成長期以降の近過去を調べることで、そうした同時代のノイズを取り除き、物事の本質を見極め、企業戦略やビジネスにおける大局観をつかむという方法論です。

 では、タイムマシン経営とは何かというと、今、この世界のどこかに「未来」を実現している国や地域があって、そこの技術や経営手法を先取りして日本に持ってくるという手法です。例えば、かつてのシリコンバレーが「未来」に当たります。実践者としては孫正義氏が知られています。未来を先取りするのではなく、過去に遡るという意味で、逆・タイムマシン経営と名付けました。