優れた経営を知るには徹底的に時代を追う

コロナ禍であっても業績を伸ばした企業と、そうでない企業がありますが、その違いは何でしょうか。

 「業界は逆風なのにその会社だけ業績を伸ばした」「ダメージを最小にできた」といった会社はあります。ただ、これはコロナ対応が良かったという理由の巧拙(こうせつ)では片づけられません。「コロナでチャンスを捉えた」「新たな働き方へのシフトが早かった」ということではなく、むしろ本来の経営力の差が表れたのだと思います。その意味で、コロナは経営者の地力を露呈させたのではないでしょうか。

 経営者には、「DXに取り組まざるを得ない」「脱炭素を推進せざるを得ない」というように、「~ざるを得ない」をよく使う人がいます。経営者は自由意志で判断するのであって、誰かに頼まれてするものではありません。しかし、マクロ環境の変化に責任を転嫁すれば、多少でも気分が和らぐのでしょう。経営が悪いのは自分の責任であることを認めたくないのです。言い換えれば、自責と捉えるか他責と捉えるかの違いです。

楠木 建(くすのき けん)氏
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サラリーマンが同僚と酒を飲みながら会社や上司の悪口を言う、というのも責任逃れの例と言えそうですね。

 今は「会社が悪い」と言えば「それなら転職すれば」と返されるので、こういった愚痴は少なくなりましたが、これは自責を他責とするから楽しいのです。しかし、経営者であれば他責を自責にするだけでなく、さらに別の発想が求められます。「夏は暑い」「冬は寒い」と文句を言うのではなく、「夏は暑い。だからこういうことができる」と考えるべきです。

 経営者の重要な役割は意思決定です。どんな主張にも「それは一理ある」と応える人がいます。しかし、経営者であれば「一理ある」という言い方はしない方がいいでしょう。

 意思決定とは、良いことと悪いことのどちらを選ぶことではなく、いくつもある良いことの中から、最善を選ぶことです。すなわち、数多くある「理」の中から、どの「理」を取って、なぜそれを取るのかを人に説明する。これが意思決定の正体です。

「逆・タイムマシン経営」を経営に生かすにはどうしたらいいでしょうか。

 高度経済成長期以降の歴史を振り返ることが有効です。同時代のノイズが洗い流されて、本質が見えてきます。では本質とは何か。「ちょっとやそっとでは変わらないもの」です。そうした本質を理解していれば、コロナなどの大きな変化が来ても経営がブレることはありません。逆に「激動期だ」と騒ぐ人は、目の前の動きを追いかけているだけで目を回しているのです。大きな動きの陰には、一貫して変わらないものがあります。それが本質であり、本質への理解を積み重ねることで大局観が醸成されます。

過去を振り返るための具体的な方法はありますか。

 簡単にいえば「新聞は寝かせて読め」です。新聞社にはたいていアーカイブのサービスがありますから閲覧の契約をするか、デジタルが苦手な人は記事の縮刷版を手に入れてもいいでしょう。枕元に置いて、寝る前にどのページでもいいから開いてください。面白い気付きや発見があります。何かを集中して調べるのではなく、偶然開いた記事を読むことがいいのですね。

 優れた経営者や尊敬する経営者について知りたいのであれば、その人に関するあらゆる記事を、古い順に読むことをお勧めします。そのうちに、本人の時代に合わせた変化とともに、一貫して変わらないものが見えてきます。面倒ですが、コストパフォーマンスの高い作業です。