コロナ禍によってダメージを受けた経済の再生と脱炭素の取り組みを両立させようとする「グリーンリカバリー」の動きが、欧州を起点に盛り上がりを見せている。こうした動向を受け、海外の先進企業はすでに動き始めている。日本の経営者はどう対応すればよいのか。気候変動イニシアティブ代表の末吉竹二郎氏は、国内企業は世界から取り残されつつあると指摘する。

末吉 竹二郎(すえよし たけじろう)氏 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI) 特別顧問、気候変動イニシアティブ 代表
写真/丸尾 透
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末吉 竹二郎(すえよし たけじろう)氏
国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI) 特別顧問、気候変動イニシアティブ 代表
1945年、鹿児島県生まれ。67年、東京大学経済学部卒業、三菱銀行入行。同行ニューヨーク支店長、取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取などを歴任。98年、日興アセットマネジメント副社長に就任。2002年6月の退社を機にUNEP FI国際会議の東京招致に専念。03年、UNEP FI特別顧問。18年、気候変動イニシアティブ設立および代表就任。同年、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWF)会長。各種審議会、講演などを通じて環境問題や持続可能社会について発信している。

2020年に入ってから、経済再生と脱炭素を同時に目指す「グリーンリカバリー」という動きが出てきました。どういった背景があるのでしょうか。

 国連によって持続可能な開発目標(SDGs)が発表され、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)でパリ協定が採択されたのが2015年。この年は、第2次世界大戦後の社会変革の上で、最も重要な節目だと考えています。この時を境に世界の潮目が変わり、サステナビリティーに向けて大きく動き出しました。16年以降、その活動が加速する中で、EUは19年12月に気候変動対策「欧州グリーンディール」を最優先政策にすると発表し、「50年までにネット・ゼロ(二酸化炭素排出実質ゼロ)を達成する世界初の大陸になる」と宣言したのです。

 その直後に起きたのが新型コロナウイルスの感染拡大でした。当初は、甚大な感染被害や瞬間的な世界経済の落ち込みを目の当たりにして、気候変動対策への意識がやや後退したのですが、そのうちに、様々な方面に資金が分散されることを危惧した欧州の政府や企業の関係者らが、「新型コロナ対策に使われる資金は、気候変動への対応に沿ったものでなければならない」と言い始めたのが、グリーンリカバリーの発端です。各国とも潤沢に資金を使える状況にはありません。限られた予算で、世界規模の課題をより効果的、効率的に解決するには、グリーンリカバリーを推進する方が合理的かつ効果的なのです。

 そもそも、気候変動と新型コロナ感染拡大は同じ根から発生した問題と言えます。両方とも、自然環境と人間との間にあったバランスが崩れたことから発生したものです。また、どちらも社会的弱者が大きな被害を受けるという共通点があります。従って、気候変動と新型コロナ感染拡大は、一方に力を入れればもう一方がおろそかになるというトレードオフの関係ではなく、両方を同時に解決できる面が多いのです。例えば、新型コロナ感染拡大以降、普及したテレワークによって、オフィスや通勤での二酸化炭素(CO2)排出が削減され、環境負荷を低減できるとした試算があります。

民間から変化をもたらす

末吉さんは旧東京三菱銀行のご出身ですが、どのような経緯で気候変動問題に関わってこられたのでしょうか。

 現在、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)の特別顧問を務めていますが、UNEP FIは1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」、通称リオ・サミットをきっかけに生まれました。同サミットは、温暖化問題が地球規模の問題として正式に認知された初めての国際会議でした。

 それまでの公害を含めた環境問題は、セクターで言えば企業や産業の問題として扱われていました。同サミット開催に際して、国連は「環境問題を考える上で大事なのは、産業もさることながら、資金の流れに携わる金融が関心を持たない限り、本当の解決はない」と気付いたのです。もっとも、当時私は銀行マンであり、今ほど強い関心を抱いていませんでした。98年に資産運用会社へ移り、そこでエコファンドの立ち上げに関わりました。日本初の環境を本格的なテーマにした金融商品として大成功を収めました。これがきっかけとなってUNEP FIに招かれ、今に続く活動をスタートしました。

それから、金融と環境を結びつける活動を日本に持ってきて環境金融の扉を開き、2018年7月には気候変動イニシアティブ(JCI)を設立しました。

 はい。JCIを立ち上げた頃には、企業が環境問題に取り組むことは世界の常識になっており、日本でも多くの企業や自治体が取り組んでいました。にもかかわらず、日本政府の環境方針は、現在でもそうであるように、世界的に遅れていました。特に、石炭火力発電が問題です。19年12月にスペインで開かれたCOP25では「石炭火力発電は唯一にして最大の障害」と指摘され、石炭火力発電を今なお新設し輸出までしている日本は「石炭中毒」と批判されました。

 日本企業がどれだけ環境に注力しても、政府の対応に問題があれば、世界から低い評価を受けてしまいます。これではアンフェアだと感じ、民間のネットワークによって、こうした状況に変えていくという目的でJCIを設立しました。予想以上に多くの企業、自治体、研究機関、団体などに賛同していただき、20年11月時点で508団体となっています。そのうち、企業は中堅中小を含めた365社。また、東京都、神奈川県、大阪市といった自治体、全国商工会連合会や地方の商工会、生協などの消費者団体も参加しています。

 JCI参加者には「パリ協定が目指すゼロエミッションで世界のフロントラインに立つ」と約束してもらっています。ですから多くの参加者が、事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーに置き換える「RE100」を公約しています。企業は、取引先やマーケットの要求を満たしていかない限り、生き残れません。であれば、国の政策がどうであれ、自力で進めていかなければなりません。