アップルやマイクロソフトがけん引

20年10月26日、菅首相は国会の所信表明で50年までに温暖化ガスの排出量実質ゼロを目指すと宣言しました。全てはこれからだと思いますが、日本企業にとって参考や指針になること、あるいは注意すべきことはありますか。

 多くの事例がありますが、代表的な2つを紹介しましょう。20年7月、米アップルは「30年までにサプライチェーン全体でのゼロエミッションを目指す」と発表しました。実は、同社は18年4月に、自社内でのゼロエミッションは達成していました。ところが同社は製造過程のほとんどを外部企業に委託しています。CO2排出を委託先企業に押し付けて、自社は「グリーンだ」と言ったところで意味はありません。そこでゼロエミッションの範囲を社外のサプライチェーンや製品の使用時にも広げました。

 同社の取り組みには大きなインパクトがあります。日本での再生可能エネルギーに対する認識は、ともすれば「環境に良いこと」「使うことが望ましい」程度かもしれませんが、世界では「RE100でない企業とは取引しない」という時代に、確実に移行しつつあるのです。実際、日本企業が欧州でビジネスをするときの納入契約の中に、RE100が条件として明記されることもあると聞いています。米マイクロソフトはさらに先進的です。25年までに自社の排出ゼロを実現するだけでなく、30年までにはカーボンマイナスを実現して、50年までに1975年の創業以来、同社が直接的および間接的に排出してきたCO2に相当する量を大気中から除去すると発表しました。

 こうした海外の動向を象徴する出来事がありました。20年8月、米国の「ダウ工業株30種平均」の構成銘柄から米エクソンモービルが外れ、代わりに、顧客管理ソフト大手の米セールスフォース・ドットコムが入りました。通称、NYダウ、またはニューヨーク平均株価は19世紀末から始まり、その時々の米国経済の顔と言える優良銘柄で構成されています。エクソンモービルは、1928年に30銘柄の中に組み入れられました。ところがその、J・ロックフェラーによって設立され、20世紀において米国経済を世界一に押し上げる原動力となった石油産業の最大手が、99年設立のIT企業に取って代わられたのです。新型コロナウイルスの影響で企業のデジタル化が加速し、セールスフォースはその影響で業績を拡大しています。つまりエクソンモービルは、脱炭素の流れに反したビジネスモデルが時代遅れと見なされ、市場における「優良」の座を奪われたことになります。石油からデジタルへと歴史が動いたのです。

末吉 竹二郎(すえよし たけじろう)氏 国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI) 特別顧問、気候変動イニシアティブ 代表
写真/丸尾 透
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 実は、2018年6月に米GEが同じ憂き目に遭っています。GEは、発明家のトーマス・エジソンが始めた会社で、NYダウ開始当初の12種銘柄のうちの1つでした。そのGEが傾いたのは、1つには、大型発電機製造を中心とする電気事業部門の収益が悪化したからです。再生可能エネルギーが広がるにつれ、世界市場における大型ガスタービンの受注が激減しました。市場ではこのような選別がすでに始まっています。

 これはGEだけでなく、電気事業を持つ日立製作所やドイツのシーメンスなども同じです。すでに再生可能エネルギーは、20世紀の代表的企業を衰退させるインパクトを持っているのです。

金融関係における気候変動に対する動きは、現在どうでしょうか。

 これまでは、企業が先行的に活動し、金融業界はそれに半歩遅れて必要な資金を融通するという姿勢でした。ところがその金融業界でも、「このままでは資金を回収できなくなるだけでなく、新たなビジネスチャンスを逃がしてしまう」という危機感を抱く人が増えています。

 米国のブラックロックは、7兆ドルを超える資金を運用する世界最大規模の資産運用会社です。報道によると同社のラリー・フィンクCEOは20年初め、「気候リスクは投資リスクとなった」として、資金の流れを変える金融の根源的な再構築の必要性を唱え、直近では、「資金配分の転換の波が津波のように押し寄せている。向こう10年のうちに、すべてをサステナビリティーで判断する時代が来るだろう」とも語っています。要するに、気候リスクを投資リスクにしないために、金融が大きな転換を図らなければならないと考えているのです。それを裏付けるように同社は20年7月、投資先企業の中で環境対応に不十分な企業として、エクソンモービルを含む53社を公表しました。