日本企業もパーパス経営に向かう

日本企業で、パーパス経営を実践している先端的な事例はありますか。

 ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを明文化しています。近年、同社では、主力のエレクトロニクス事業が振るわず、ゲーム、音楽、映画といった事業で稼いでいました。そこで21年4月、それまでのソニー単体の組織から持ち株会社であるソニーグループ株式会社に商号変更し、その下に各事業を分社化したのです。パーパスによって大きな方向性を示し、あとは各事業が自律的に動くことを狙ったのです。

 私の考えでは、良品計画も該当します。同社は現段階では明確なパーパスを掲げていないものの、「店舗の土着化」という言葉を使って社会的存在意義を表現しています。店舗で商品を販売するだけでなく、地域住民の交流の場となり、地域課題解決の拠点とする取り組みを自治体などと連携して進めています。

 例えば千葉県鴨川市では、良品計画が「みんなみの里」という地域施設の指定管理者として、無印良品の店舗のほか、地元生産者の作る農産品の販売所、地元食材を使ったレストラン、加工品を開発する「開発工房」などを手掛けています。また、横浜市のJR港南台駅前の髙島屋跡地に作られた商業施設に、広い食品売り場を伴う大型店をオープンさせました。百貨店が撤退して食料品の買い物に困っていた住民の課題を解決するとともに、通常のスーパーのやり方とは違う、地域交流の場を目指しています。

岩崎 博論(いわさき ひろのり)氏 武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授
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 このような取り組みは、チェーンオペレーション方式で店舗を展開してきた同社からすれば大きなチャレンジだと思います。しかし、視点を変えれば、20世紀のビジネスモデルから、地域密着型の21世紀にモデルへの転換ともいえます。チェーンオペレーション型と比べて、地域密着型では、販売効率が落ちるかもしれません。一方で、企業のパーパスを重視する消費者から選んでもらえる店として定着する可能性があります。

 スノーピークも、パーパスとして明文化してはいませんが、「人間性の回復」を自社のビジョンとし、そのための方法として「人生に、野遊びを。」をというメッセージを発信しています。同社の世界観はヒューマニズムにあふれており、それに共感する多くの企業や自治体と協同して事業展開しています。これもパーパス経営といえる取り組みです。

 このように、パーパスが中央にあって、その周りにいる複数のステークホルダーが商品開発や事業展開で協業する仕組みをエコシステムと言います。これも21世紀型のビジネスモデルです。顧客は製品ではなくパーパスに共感しているのですから、領域横断的な展開、つまり、事業の多角化によって接点が増え、事業機会が広がるわけです。