中小企業におけるイノベーションの重要性を語る、早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授のインタビュー後編。入山教授は、同族企業にとって避けて通れない事業承継の成功例を紹介。後継者を外部に解き放ち、「知の探索」の実践者として呼び戻せれば、イノベーションを起こせる可能性が広がると語る。
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入山 章栄(いりやま・あきえ)氏 早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
写真/陶山 勉
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入山 章栄(いりやま・あきえ)氏
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
1998年慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院で博士号(Ph.D.)を取得。同年から米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。専門は経営戦略論および国際経営論。近著に『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)

近年高まってきた不確実性がコロナ危機によってさらに高まった今、イノベーションを起こせる企業とそうでなに企業の違いはどこにあるのでしょうか。

 経営者に変える意識があるかないかです。既に大企業ではずいぶん差がついてきているので、これから中小企業の選別が始まるでしょう。

 金属加工会社のHILLTOP(ヒルトップ、京都府宇治市)は、率先して変化している中小企業の例です。元は自動車メーカーの孫請け企業でしたが、親子二代にわたりイノベーションを起こし、ビジネスモデルを転換してきました。1980年代の初め、創業者の次男である山本昌作現副社長が、加工ラインに人が並んでいるのを見て「これは人間のやる仕事なのか」と言い出し、自動加工システムを開発しました。それと併せて、匠の技が生かせる一点もの製品の製造に業態転換しました。これによって従来の金属加工会社から一変したのです。

 そして、昌作氏の長男、山本勇輝現経営戦略部長が2006年に広告代理店を経て入社、比較的単純な金属加工を機械学習に任せることにしました。それまで、匠の技は機械の作業には置き換えられないという思い込みが根付いていました。しかし、勇輝氏はそうした固定観念にとらわれることなく、機械学習による置き換えに成功しました。それによって、事業を試作品などの多品種少量生産に切り替え、日本の大手企業ほか、米国のNASA(米航空宇宙局)やUberとも取引するようになりました。現在、HILLTOPの製造ラインに従業員はほぼ不在、人間はクリエーティブな仕事をするために3次元CAD(コンピューターによる設計)ソフトに向かい合っています。昼間に人間が組んだプログラムを基に、夜間に機械が自動加工をしています。クリエーティブな仕事に就きたいと考える若者から注目され、有名国立大学からも人材を採用できる人気企業になりました。