「いいですね」と聞いても安心しない

 また、他の選択肢との具体的な比較ではなく「先延ばしにしてもいいはずなのに、なぜ今なのか」という点もクリアしなければなりません。これが3つ目です。お客様からすると、決断を保留するというのが楽な選択肢ですから、それに対して、「決断を保留すること」ではない方が望ましいと示す必要があります。複数の会社でのコンペではなく、1社検討で稟議(りんぎ)を起こす場合がこれです。

 私は、営業の駆け出しの時代、お客様の担当者から「御社の提案はすごくいいですね、私は個人的に御社を推したいと思いますので、社内で相談します」という言葉をもらったときに、「やった。受注をいただける」とその場で舞い上がってしまい、その後のフォローもせずに連絡を待ってしまったことがありました。

 しかし、担当者の「個人的にこの会社の提案は良いと思うので推したい」という意見だけでは、会社の決裁が通りません。会社の上層部からは「確かに、提案書で言っていることは分かるのだが、それは本当に今でないといけないのか」と突っ込まれ、それに対して担当者の方が言葉に詰まってしまったことから、その提案は残念ながら見送りになってしまいました。

詰めの甘さを防ぐために

 私がそのときに学んだ教訓は、「担当者が個人的な感触でよいと話しても、会社としての発注理由が明確になっていない提案は通らないことがある」というものでした。今思い返すと非常に基本的なことですが、当時の自分の詰めの甘さは歯がゆい限りです。

 以上、お伝えしてきた「他にも良い商品・サービスはあるのになぜ当社か」「外注せずに内部でやるという選択もあるのになぜ当社か」「先延ばしにしてもいいはずなのに、なぜ今なのか」に対する明確な答えを、いったいどうやってつくっていったらよいのでしょうか。

 具体的なステップについて、次回の記事で解説していきたいと思います。

(日経BP「日経ビジネスベーシック」連載記事を加筆・修正)

高橋 浩一(たかはし こういち)氏 TORiX 代表取締役
高橋 浩一(たかはし こういち)氏
TORiX 代表取締役
東京大学経済学部卒。外資系コンサルティング会社に勤務後、25歳のときにアルーの創業へ役員として参画。 同社の事業部長、取締役副社長として、事業起ち上げや営業の組織づくりに従事。実績も経験もない状態から、多数の一部上場企業を取引先として新規開拓。さらに、毎年新入社員を採用・育成して戦力化する仕組みをつくり上げる。創業時3人から6年で社員70人まで組織を成長させた経験を基に、現在はスタートアップ支援も行う。2011年にTORiXを設立、代表取締役に就任。これまで、50業種以上、3万人以上の営業指導に携わる。コンサルティングは年間800件、登壇は200回以上。日経ビジネス課長塾“THE営業力”でもメイン講師を務める。19年10月、コンペで8年間無敗の経験を基に『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)を出版 。発売半年強で4万部のベストセラーに。最新刊に『無敗営業 チーム戦略』(日経BP)がある。
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