あなたの提案がお客様から選ばれる理由をつくるには、お客様の認識を変えさせるだけの材料が何かしら必要になります。そこで求められる思考プロセスを図にすると以下のようになります。例として「新規事業立ち上げを支援するコンサルティングサービス」の提案を競合企業と比較されている場面を想定しています。
競合比較の場合、仮に2社の間でお客様が迷ったとすると、どちらかを選ぶことになります。お客様が「他社を断って当社を選んだ方がよい」という筋道を描きやすくする手順を考えていきましょう。
メリットとデメリットを整理
まず、図のステップ1にあるように、当社案と何が比べられているのかを明確にします。接戦のコンペで勝つためには、「どこの会社のどういう提案と比べられているのか」を詳しくつかんでいなくてはなりません。競合がどこか、どんな提案を出してきているのかが分からないと、この先の対策が立てづらくなります。
そしてステップ2です。当社と競合のそれぞれのポジティブ材料(メリット)・ネガティブ材料(デメリット)を書き出していきます。ここでは、シンプルな要素にとどめていますが、実際は、多く出せる方が望ましいです。
この際、「当社のネガティブ材料」と「競合のポジティブ材料」を、お客様の認識のまま進めると、当社が断られる原因になってしまいます。そこで「当社のネガティブ材料」と「競合のポジティブ材料」に対して、解消策を考えていく必要があります。
当社案のデメリットを解消するアイデアはできるだけ多く書き出しましょう。その際、お客様が「何を懸念しているのか」を根本まで掘り下げることが重要です。例えば「御社の提案は他社より高いですね」とお客様がおっしゃっていたとしても、その言葉の裏には以下のような理由が考えられます。
・価格の高さを社内で説明しづらい
・費用対効果に対して納得がいっていない
・予算の調整をするのが面倒くさい
ここで、懸念の裏にある理由を具体的に把握しないと、値下げよりほかに策がなくなってしまうのです。しかし、懸念の理由を「費用対効果に納得していない点」に絞り込めていたら、単に価格を下げるよりも、具体的な費用対効果の説明をすることで当社案の課題が解消される可能性があります。
「近いことはできます」と提案も
競合のポジティブ材料については、細部は異なったとしても、当社で「近いことはできますよ」ということを示す必要があります。例えば、「本当に必要最低限のことだけに絞り込むことで価格を抑えている」というのが競合のポジティブ材料なら、そこでお客様が感じる魅力は以下のようなものが考えられます。
・提案内容にムダがない
・初期投資にかかるリスクを抑えられる
・社内で説明しやすい
これらのどこに照準を合わせるかによって、提案ロジックが変わってきます。ここで「競合案に感じている魅力は、当社では得られない」とお客様が考えてしまうと、それは当社案が断られる理由になってしまうのです。ですから、「競合案にはムダがない」とお客様が感じられているのであれば、「当社案の内容は、余計なものは含んでおらず、十分に絞っている」(競合案では、今回の要件に対して足りない要素がある)と示さなければなりません。
そして、ステップ2で要素を十分に洗い出したら、ステップ3では、それらの材料を組み合わせて、文章にします。
さて、ここまで、お客様が発注先を選ぶ心理と、それに合わせて選ばれる理由をつくる思考プロセスを解説してきました。では、どうやったら、こういった「理由をつくること」がしやすくなるのか。次回は、その上で鍵となる4つの力について述べていきたいと思います。
(日経BP「日経ビジネスベーシック」連載記事を加筆・修正)

TORiX 代表取締役
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