「悩みはないですよね」と投げかける

 しかし、生命保険の営業マンのトークを思い出し、こう変えてみました。

 「御社のような、規模も大きくて就職活動の人気ランキングも高い会社さんだったら、優秀な方がたくさん入ってくるわけですから、人のスキルや組織の悩みなんて全くないでしょうね」

 もちろん、お客様の答えはこうです。

 「いえいえ、何をおっしゃいますか高橋さん。弊社なんて悩みだらけですよ」

 そして、私はこう返します。

 「え、そうなんですか。意外ですね」

 そうすると、お客様は「聞いてくださいよ」とばかりに、どんどん課題をしゃべってくれます。

 人は、予想外に褒められたり、持ち上げられたりすると、それを否定しようとする心理が働きます。この質問は、そうした心理を効果的に利用したものです。この質問によって、今までガードが堅く当社の悩みなんて話してもらえなかった日々から、いきなり、会社の悩みをすらすらといただけるようになり、商談の展開がガラッと変わったのです。

 感触を得てきた私は、情報収集、実験、検証のモードに入りました。とにかく色々と取り入れ、考え、試してみる毎日です。

お客様の悩みを聞き出す質問

午前11時か午後5時のアポを入れる

 例えば、たまたま自分がお客様とのアポイントがいただけることになったときには、時間帯を昼の11時か夕方の5時に設定して、お客様のオフィスの近くのお店を予約しておきました。そして商談の後に「よろしかったら食事をご一緒にいかがですか」とお誘いして、お店で会話を続けていたのです。

 話を聴いてみようと思わせる営業担当者と、追い返したくなる営業担当者はどこが違うのか。自分の営業はどこでつまずいているのか。どこかいいところはあるのか。私はお客様にひたすら聞き続けました。

 思い返すと、この聞くプロセスを通して、私は1つのことを問い続けていたのだと言えます。それは、「お客様がある会社の営業担当者を選ぶのはなぜか」です。その営業を選ぶ理由が何かしらあるからお客様は話を聴いてみようと思うわけですし、営業を選ぶ理由につながる材料があれば簡単には追い返されません。

 ただ、この質問に対する答えは、営業である私の中から出てくるものではありません。お客様の視点からしか生まれないのです。そこが極めて重要なポイントであり、若手経営者がまず身につけるべき考え方なのです。

(日経BP「日経ビジネスベーシック」連載記事を加筆・修正)

高橋 浩一(たかはし こういち)氏 TORiX 代表取締役
高橋 浩一(たかはし こういち)氏
TORiX 代表取締役
東京大学経済学部卒。外資系コンサルティング会社に勤務後、25歳のときにアルーの創業へ役員として参画。 同社の事業部長、取締役副社長として、事業起ち上げや営業の組織づくりに従事。実績も経験もない状態から、多数の一部上場企業を取引先として新規開拓。さらに、毎年新入社員を採用・育成して戦力化する仕組みをつくり上げる。創業時3人から6年で社員70人まで組織を成長させた経験を基に、現在はスタートアップ支援も行う。2011年にTORiXを設立、代表取締役に就任。これまで、50業種以上、3万人以上の営業指導に携わる。コンサルティングは年間800件、登壇は200回以上。日経ビジネス課長塾“THE営業力”でもメイン講師を務める。19年10月、コンペで8年間無敗の経験を基に『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)を出版 。発売半年強で4万部のベストセラーに。最新刊に『無敗営業 チーム戦略』(日経BP)がある。
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