税理士の岩松正記氏が三菱UFJビジネススクエア「SQUET」で連載しているコラム『取引したい会社、したくない会社』から、人気記事を転載する。今回は、不透明な時代だからこそ、経営者には慎重な判断が求められる。そして会社経営においてこそ、「感情」ではなく「勘定」で判断を下すべき、というお話。

情報を選択し冷静に判断できる会社、軽率な判断をしてしまう会社
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判断する上で注意すべきこと

 2020年は新型コロナウイルスに振り回された感があるにもかかわらず、株価はグングン上昇していました。株価は景気の先行指数といわれているので、市場はコロナ禍明けを予想しているような動きと言えますが、周囲を見渡してもそのような明るい雰囲気は見られず、先行き不安感は増すことこそあれ、薄まる要素はないように思えます。しかし、このような状況だからこそ経営者の判断が重要なわけで、そのために経営者は自ら情報を取りに行き、進んで勉強しなければなりません。

 とはいえ、人は情報過多になると判断できなくなるといわれています。これを行動心理学では「決定回避の法則」と名付けており、多過ぎる選択肢や複雑な選択肢を与えられると、かえって1つに絞り込むことができなくなるのだとか。それを逆手に取ったのが、商品売り場などで見られる「今日のおすすめ」「当店売れ行き第1位」といった宣伝方法で、多くのアイテムの中にこういう提案があると人はそれを選ぶようになる、つまりは「決定できるようになる」というのです。

 実際の経営の現場では、そういう示唆や提案はないので、トップは当然に自ら判断を下さなければなりません。その際に注意しなければならないのは、自分にとって都合のいい情報を選ばないようにすることです。都合の悪い情報は無視したり過小評価したりして、都合のいい情報のみを選択することを「正常性バイアス」といいますが、人はついついこれをやってしまいがちです。経営者はこういうことも踏まえて経営上の判断をしなければならない、つくづく厄介な立場なのだと思います。

冷静な判断は難しい

 自分の下した判断と逆のことが起こったとき、大事なのは批判ではなく、反省であり検証です。「そのような話は知らなかった」「教えてくれなかったからできなかったのだ」などと他人のせいにしても始まりません。私は税務に携わっているので、そういう局面を目にする機会が比較的多いのですが、ほとんどの場合、判断を鈍らせる原因は「欲」のような気がします。抽象的な話で恐縮ですが、何か1つの判断を下す場合、当然にそれによって得られるメリットとデメリットを勘案し、メリットが大きい方を選択するのが世の常です。もちろんそれはそれでいいのですが、「欲」が絡んでくると、人は往々にして有効な判断ができなくなるものです。そして、自分にとって都合のいい判断をしたがる傾向があります。

 例えば、個人所有の不動産を、自分がオーナーの同族会社に移転するような場合を考えてみます。もうその段階で背景にいろいろな要因があるのは仕方ないのですが、それはさておき、当該物件を高く売れば個人の所得税が多くなるので、できるだけ低い価格で売却したくなるのは当然のことでしょう。このような、いわば身内の中での取引のような場合、自分で値決めをするわけですから、その金額には帳簿価額と固定資産税評価額のどちらかを選ぶことが多く、例えば帳簿価格が1円だったりすると、当然にその安い価格で売却したくなるものです。しかしながら、常識で考えて、不動産を1円で売るというのは尋常な取引なのかどうか。税務上は、あまりに低い価格で資産移動をした場合には、不当に低くした分の金額に税金がかけられたりする規定がありますので、ここの値付けが非常に重要となります。もちろんこれはケースバイケースで違ってきて当然なのですが、自分に都合のいい情報だけを選んで取引を行ったりすると、あとで痛い目にあうことが多いので、ここでの判断は慎重に行わなければならないと言えます。