税理士の岩松正記氏が三菱UFJビジネススクエア「SQUET」で連載しているコラム『取引したい会社、したくない会社』から、人気記事を転載する。今回は、新型コロナ禍が日本を覆いつくしているこのような時だからこそ、経営者は感情論で経営を語るのではなく、明確な数字を社員や取引先に示していくしかない、というお話。

明確な数字を掲げる会社、感情で突き進む会社
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なぜ不安に陥るのか

 相変わらずコロナ禍が日本国内を覆いつくしています。緊急事態宣言が発令されている地域(編集部注:21年2月末時点)ではもちろんのこと、宣言が出されていない地域でも、先が見えない状況が続いています。私も最近はオンラインでの打ち合わせや会合が増えているのですが、画面越しに口から出てくるのは「一体この先どうなってしまうのか」といった言葉ばかりです。毎日発表される感染者数に一喜一憂する日々は、まだしばらく続きそうな感じです。

 なぜ、そんなに不安に駆られるのか。理由は簡単で、先行きが見通せないからなのですが、ではどうやったら先行きを見通すことができるのでしょうか。1つの方法は「数字を示すこと」でしょう。今回の緊急事態宣言においても、「〇日まで自粛」のような数字目標があると、「とりあえずその日まで頑張ろう」という気にはなります。ただし、「出勤者数を7割減らす」といったような目標だと、正直、交代勤務でいいのか、時短でいいのか、何をどうすればいいのか、迷った会社が多かったのではないでしょうか。最近の法改正で新設されて今後出てくるであろう、「緊急事態宣言」とは別の「まん延防止等重点措置」に至っては、基準が何なのかぱっと見ではよくわかりません。一体、何をどこまでどうすればいいのか、基準がはっきりしない点が、もやもやする原因の1つなのではないかと思います。

数字はうそをつかない

 北海道大学病院の樋田泰浩准教授は、コロナ騒ぎの当初から「再生産数」によって感染度合いを理解するよう、SNSを通じて情報を提供していました。「再生産数」とは、疫学の分野で使われる指標です。「基本再生産数」と「実効再生産数」が混同されて使われているようですが、これらは異なるものであり、前者は簡単に言うと「その感染症に対する免疫を持たない集団で、1人の感染者がうつす人数」のことで、後者はその数字を用いて「感染個体がすでに存在するかもしれない集団内で、1人の感染者がうつす人数」をさらに試算したものです。実効再生産数が1以上で感染は増加傾向、1未満で減少傾向を示します。

 樋田准教授は、この「実効再生産数」が1.0を切らない限りは油断してはいけないと当初から述べていて、昨年の夏場はもちろん、少しコロナ禍が落ち着いた感じだった秋口でもずっと警鐘を鳴らしていました。寒くなる前、世の中がGo Toキャンペーンなどで少し明るい見通しが出てきたような時でも、実効再生産数はなかなか1を切りませんでしたから、それを根拠に警告を出し続ける彼を見て、私は正直恐れ過ぎではないかと思っていました。しかし今になって考えれば、それは決して杞憂(きゆう)ではなかったわけです。実効再生産数が1を切らないうちはとにかく気を緩めてはいけないという彼の主張は、感情によるものではなく、このように明確な数字で示されていたものでした。だから、本来であれば重要な指標として、もっと注目されてしかるべきだったのかもしれません。もちろんマスコミなどであまり大きく報じられないだけで、「実効再生産数」は現場では重視されていたようです。そうであればなおさら、本当はもっと周知しなければならなかったのではないかと非常に残念に思っています。

 実は、樋田准教授は北大陸上部出身で、大学時代に私と同じ種目で競った仲です。昨年春ごろから彼が新型コロナに関する情報発信者として活躍するのを私はうれしく思い、その投稿を頼もしく見ていました。ちなみに樋田准教授はコロナワクチンの有効性を訴え、ワクチン接種を推奨しています。