税理士の岩松正記氏が三菱UFJビジネススクエア「SQUET」で連載しているコラム『取引したい会社、したくない会社』から、人気記事を転載する。今回は、コロナ禍を機にした将来の見直しについて。自分の一挙手一投足が周囲に多大なる影響を与えるということを、経営者は常に意識しなければならない――というお話。

リタイアを公言してもやる気が見える社長、見えない社長
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新型コロナで見直し

 私の本業は税理士なので経営者とお会いする機会が非常に多いのですが、新型コロナによる自粛のあと、お会いする経営者たちの多くから「生命保険の見直しをした」と伝えられました。私は生命保険の代理店をやっていないので、保険の内容のすべてを把握しているわけではないのですが、多くの方が「私が今、死んだら〇億円入るから、会社も家族も安泰かな」とか「借金がなければ今、商売を辞めてもいい」とか「でも、死んでから入るお金は私が使えないから残念だ」とか、それぞれの思いを語っていました。

 正直な話、経営者が自分の死んだあとのことを考えるのは非常に有用なことです。人はなるべく自分にとって不利益なことや、起こってほしくないことは想像したくないものですが、経営者はそれではいけません。仙台に住む私の震災の教訓は、「あり得ないことはあり得ない」で、これを常に経営者の皆さんに伝えるようにしています。自分の身に降りかかるであろう悪い出来事を想像し、その対処方法を常日頃から考えておくことは、経営者にとって忘れてはならない、経営戦略の一つなのではないかと思います。

やる気は伝わる

 ただ今回、話を聞いた経営者の中には、先を見通してしまったがゆえになのか、やる気を失ったというか、経営に対する意欲が失せてしまったような方も見受けられました。心配のあまり、先の先を考え、対応策を立てて後継者についてもある程度、目途を立てた結果、「あと3年で引退する」とか「あと5年で辞める」と口にするようになった方が何人もいました。

 もちろん、リタイアすることはその人その人の生き方の問題ですから、決して悪いことではありません。「人生100年時代」とここ数年いわれだしてはいるものの、それは「引退するな」と言っているわけではありません。今回のコロナ禍の中で出処進退を考え、事業承継についても憂いがなくなったのであれば、それはそれで一つの選択肢です。

 しかしながら、あまりに早く公言してしまうことが会社経営にとってプラスなのかマイナスなのか、ちょっと疑問に思う点がありました。ほっとしたためなのかどうかはわかりませんが、通常の連絡をしても返信が来ない、重要な経営判断に対して意見を挟まなくなった等々、明らかに経営に対する意欲が薄れ、やや投げやりになったと感じる経営者がいたのです。頻繁に会うわけでもない私がそう感じるのですから、毎日接している社員や、接する頻度の高い取引先などは一体どう感じるのか、どう思うのか。ちょっと心配になりました。