必要な時に上手に「叱る」ために

 「叱る」ということが、上司と部下の双方にとって意味のある適切なコミュニケーションとなるためには、いくつかの前提条件があります。そのポイントを以下に3つ挙げます。

1:上司と部下の間に信頼関係が築かれている

 本連載コラムの第1回でお伝えした上司と部下の間に適切な信頼関係ができていることはここでも重要になります。誰に言われるかで同じことでも受け取り方が変わることは皆さんも経験があると思います。信頼している上司による「叱る」は、「叱られる」よりも「叱ってくれている」のニュアンスが出て、部下にとっては「自分のためにしてくれている関わり」として受け止めて、改善行動にも前向きに取り組んでくれます。ここは、第2回で取り上げた部下を「観る」や「存在承認」をはじめ、プロセスや日常言動に関する「事実承認」、行動による成果に関する「成果承認」といったコミュニケーションが日頃から適切に積み上げられていれば心配ないと思います。

 前述のエピソードで紹介した若いビジネスパーソンのいう「自分たち自身への関心」を感じられる関わりがまさにこれですね。そして「よくする」ために「叱った」ことで、部下が状況を改善できれば、その結果についてはしっかりと成果承認のコミュニケーションを取ることも忘れないでください。ここまでできて初めて「叱る」に始まる「よくする」ための一連のプロセスが完了となります。

2:何について、なぜ叱られているのかの共通認識

 「叱られたけど、何でなのかイマイチ分からない(もしくは納得できない)……」。上司と話していた部下が自席に戻り同僚にこんな言葉を漏らす。ありそうな光景だと思いませんか?

 このようなおかしな状態にならないためには、

①何が問題なのか
②部下当人に責があること
③本来はどうあるべきだったか
④今後、どのようにどう改善するか

 これら4つを明確にし、部下当人が理解・納得して話を終えることが重要です。また、いずれについても、まずは本人がどう考えているのか質問するようにしましょう。その回答内容によって、その仕事に関する部下の理解度などを測るきっかけにもなります。上司が少し感情的になりすぎると「何でなんだ!」と①②の問題指摘や責任追及に偏りすぎてしまうことがありますが、これをやりすぎて部下の人間性に対する非難めいた言葉を発してしまう上司もいるので要注意です。

 「叱る」目的は、指摘や追及ではなく、あるべき状態ではないことを改善することと心得、④の今後どうしていくのかに重きを置くことが重要です。

3:「怒る」と「叱る」を混同しない

 言うまでもなく「怒る」は喜怒哀楽の感情表現の1つであり、上司がイラッとした感情を部下にぶつける行為にすぎません。効果がないとは言いませんが萎縮や反発などにつながりやすく、長い目のマネジメントを考えると良い手とは言えません。この当たり前の話をここであえて取り上げるのは、上司本人は「これは怒ってない。叱っているんだ」と言い張るけれど、周囲にはどう見ても怒っているだけにしか見えないという状況がよくあるからです。経営者ご自身は大丈夫でも自社の管理職はどうでしょう。社員の退職にもつながることなので心配があれば実態把握してみることも必要かもしれません。

 ちなみに私のお勧めは、「叱る」時にどこにポイントを置きどうやって伝えるかのストーリーを一度冷静に組み立てることです。このストーリーを考えるプロセスを踏むことで話をシンプルにできますし、仮に感情的になりかけても上司自身の気持ちを落ち着かせる深呼吸効果も得られます。

 部下との間に信頼関係を築くコミュニケーションを日頃から実践し、部下を「叱る」タイミングでもこれらを意識して接していれば、本コラムのタイトルのように「叱ってくれた」と感謝もされつつ問題も解決し、「よくする」ことができるようになるはずです。

御供田 省吾(ごくでん しょうご)氏 組織営業総研 代表
御供田 省吾(ごくでん しょうご)氏
組織営業総研 代表
キーエンス入社後、一貫してコンサルティング営業に従事。自ら考案した営業手法が「現場発の売れる仕組み」として全社的に紹介されるなど、独自の視点からのコンサルティング営業スタイルを確立。同社の営業エリア責任者を経て、日本最大級の不動産情報サイトを運営するLIFULL(旧NEXT)に入社。若手が成果を出しながら成長する組織を独自の手法でつくり上げ、次世代の現場マネージャーを排出した。同社営業部門責任者を経て、人・組織の成長がクライアントの業績向上につながるよう支援をするコンサルタントとして組織営業総研を起業、現在に至る。
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