前回は、本連載の導入として、「上司と部下の信頼関係」が人材育成の土台になるということをお伝えしました。第2回は、部下を「観る」ことの重要性から話を進めていきたいと思います。「見る」ではなく観察の「観る」という字を使っているのには意味がありまして、上司は部下のことを何となく「見る」のではなく、意志と意識を持って部下を「観る」ことが大切という意図を込めています。

テレワーク時代にこそ立ち返るべき、上司と部下の信頼関係づくり
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部下のことをよく「観る」を徹底すべし

 私が管理職になって最初にこだわって徹底したことが、「部下の顔を観て挨拶をする」ということで、そこにあったのは「まずはしっかりと部下を観ることから始めよう」という思いでした。基本的には出勤と退勤、そして営業職だったので外出と帰社の2回を加え、計4回のタイミングで自席にいるときに、顔を上げ、部下の方を観て「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「お疲れさま」の挨拶、声掛けを必ず行っていました。これは、部下を「観る」ということの最もシンプルな実践例の1つです。

 我々が現在実施している研修セミナーで「部下に挨拶はしていますか?」と聞くと、全くしていないという上司はいません。しかし、「徹底していますか? パソコン画面などを見ながら目線を向けずに声だけの挨拶になっていませんか」と問いかけると、途端に苦笑いになったり、目線をそらしたりする人は少なくありません。

 1つ試してみましょう。誰でも良いので特定の1人の部下について、昨日の朝、最初に会った際(普通に考えれば朝の挨拶のタイミングなど)に、その部下がどんな表情をしていたか思い出してみてください。どうでしょうか、鮮明にその表情を呼び起こせたでしょうか。

 実は、これは弊社の人材育成スキル強化セミナーで聞いている定番の質問なのですが、思い浮かべられた人に挙手をお願いしても、参加者の50%以上の手が挙がることはなかなかありません。それでいて、この質問の前に行った「上司として部下を観ることができていると思いますか」という問いでは、50%以上の人が手を挙げているのです。つまり、観ているつもりだけれども、実はちゃんと観ることができていない上司が結構いるということです。

 人材育成をより良く進めるためには、部下への関心を持つことが大事という基本を考えると、これは決して正しい在り方とは言えません。人材育成に真剣に取り組もうとするときに、朝に挨拶をした際の部下の表情くらいは思い出せるようにしたいものです。

 昨今、人材育成において「承認」が大事であるということはもはや常識として広まっていますが、「挨拶」というのは、最も初歩的な承認行動の1つの「存在承認」であり、顔を観ての挨拶は、部下に「上司の自分に対する関心」を無意識的にも感じさせます。これは前回のコラムで紹介した、良質なコミュニケーションを実現するための要素となる「相手への関心」そのものであり、上司と部下の信頼関係を積み上げる際の基本行動の1つともなります。

 もしも今、この初歩的な承認行動が“徹底”できていないのであれば、これはすぐにでも取り組める改善のポイントになります。「部下の顔を観て挨拶する」ことにはスキルも必要ないので、上司として「やる」か「やらないか」、ただそれだけです。上司のコミットメント次第なのです。

 「観る」ポイントは、日常の表情やまとっている雰囲気、同僚との会話量の増減、出退勤の時間が変化している、コミュニケーションを取る相手が変わる、日報や定例メールの文章量や質が変化しているなど様々です。カギは、変化に気づけるかどうかです。

 余談ですが、先日、人材育成などを上手に進めて良い組織をつくっておられる方が「テレワークは、じかに会ってコミュニケーションを取ることと比べれば多少不便なところはあるけど、メンバーの表情が観えるというのは良いなぁと思う。今は事務所で会ってもみんなマスクなので、なかなか表情が読み取りにくいから」と話していました。こういうことを自然と気にかけて、サラッと話題にできるということからも、人材育成、組織づくりの上手な人が日頃からどんなことに関心を寄せているかが分かります。