「ひげ」がダメなわけではない

岡田顧問もちろん、一律にすべてのひげを禁止することは無理ですよ。ハイヤーの運転手の事例ですが、「ハイヤー営業のように多分に人の心情に依存する要素が重要な意味を持つサービス提供を本旨とする業務においては、従業員の服装、身だしなみ、言行等が企業の信用、品格保持に深甚な関係を有するから、他の業種に比して一層の規制が課せられるのはやむを得ない」(イースタン・エアポートモータース事件・東京地判昭和55・12・15)とした上で、会社に従業員の口ひげを一定程度まで制限することを認めた裁判例があります。この事案においては、裁判所は、会社は口ひげをすべて禁止できるわけではなく、「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」に限り禁止できるとの判断を示しました。

 言い換えれば、手入れされている口ひげなどは業務に支障を来すとはいえないので、禁止することはできません。まして、顧客との接点の少ない社員の場合には、禁止の範囲は限定されます。

中村さんそれはそうですね、業務に支障を来さないのであれば、禁止する理由がないですよね。

会社には働きやすい環境を整える義務がある

田中係長(ためらいながら)実は、言ってよいかずっと迷っていたことがあるのですが……。

岡田顧問何でしょう。気になることがあれば何でもおっしゃってください。

田中係長はい。実は、私は強い香水の匂いが苦手で、エレベータの中で強い香水の匂いがすると、かなり息苦しくなることがあります。仕事場でも、私と同じ思いをしている人がいるとしたら、仕事に集中できないのではないかと思いまして。

中村さんあっ、それ、分かります。でも、本人には言いにくいですよね。私も、気になっていることがあります……。

岡田顧問どうぞおっしゃってください。働きやすい職場を考えるには、まず問題発見が大切ですからね。

中村さんはい。気になっているのは、職場にはふさわしくない、あまりにも露出の多い服装で仕事をしている社員のことです。気にしない人もいると思いますが、不快に感じる人もいると思います。来客があるときも、お客様がどう思っていらっしゃるのか、と気になっていました。

岡田顧問そうですか、香水にしても服装にしても、自分では「問題なし」と思っていても、他の人が不快に感じることはあるものです。職場では誰もが快適に仕事に集中できるように、おのおのがよい職場環境を意識することが大切です。「周囲への配慮」という問題ですね。

 それから、会社には働きやすい環境を整える義務があると考えられていますから、「周囲への配慮」に欠けている社員には、周囲の人が不快さを感じていること、それによって仕事に支障を来たしているので、改めてほしいことを伝えるべきですね。