菅義偉首相は10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。
 首相就任後初めての所信表明の目玉として内外にアピールすることを狙ったもので、菅政権の好イメージを演出する戦略としてはうってつけの政策だ。だが、この「2050年カーボンニュートラル宣言」は、実は安倍晋三前首相時代から政府内で着々と準備を進めていた既定路線だ。

(写真提供:ロイター=共同)

 「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」。菅首相は力強く宣言した。

 2050年カーボンニュートラルはCO2やメタンなどの温暖化ガス排出量を、森林吸収や排出量取引などで吸収される量を差し引いて全体としてゼロにすることだ。

 政府はこれまで「2050年に80%削減」としてきたが、明確な年限を示した上でゼロにまで踏み込んだことに、海外から称賛の声が相次いだ。

 実際、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は「菅首相の表明に勇気づけられた。前向きな進展に首相のリーダーシップに感謝したい」と喝采した。各国首脳や海外の国際企業代表らの反応は、中国が2060年カーボンニュートラルを発表した時とは違って鮮明だった。それだけに今回の仕掛けは成功したと言える。

 ここで1つの疑問が浮かぶ。菅首相は気候変動問題に熱心だったのかということだ。

 少なくとも安倍政権の官房長官時代、目立った発言や行動をしたことはなかった。むしろ温暖化ガスを大量に排出する石炭火力発電の輸出について「日本の石炭火力は効率がいいんだろ」と言い放ち、国際的に批判が強まっていた石炭火力輸出にお墨付きを与えていたぐらいだ。

きっかけは自公政権合意

 その程度の認識だった菅首相が乗り気になったのはなぜだろうか。1つは連立政権を組む公明党の突き上げ。もう1つは、ある人物の進言だ。

 菅首相がカーボンニュートラル宣言を打ち出す予兆は就任直後にあった。9月中旬。公明党の支持母体である創価学会の幹部らが都内で会合を開いていた。様々な話に興じている時、学会幹部の携帯電話が鳴った。「菅です」。電話は新しく結ぶ自公の政権合意についてだった。

 学会内では若年層、女性を中心に気候変動対策を求める声が強まっていた。同席していた省庁幹部の口添えも手伝って、学会幹部は「脱炭素政策を入れてほしい」と菅首相に伝えた。菅首相は即座に入れると答えたという。

 菅首相は公明党とかなり強いパイプがある。政権運営も考えればむげにできない相手だ。脱炭素社会、気候変動対策そのものへの関心というより、政権運営を円滑にするための判断だが、菅首相のアタマに「脱炭素」がインプットされたことには違いない。

「気候変動対策を加速」「脱炭素社会の構築」が明記されている政権合意
9月15日に締結された自民党と公明党の政権合意文書

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