2020年12月下旬からの電力市場の価格高騰で、新電力が甚大な経営ダメージを受けている。電気事業への豊富な経験とノウハウがある大手新電力ですら悲鳴を上げており、2016年4月の電力自由化を契機に新規参入した新電力のダメージはさらに深刻だ。

 大手新電力による電気事業の見直しが始まった。楽天モバイルは1月26日、電力・ガス小売りサービスの「楽天でんき」の新規契約を当面停止すると発表した。楽天でんきとセット販売している「楽天ガス」も停止した。再開時期は未定。

 楽天は後発ながら、販売電力量を急拡大させており、販売電力量による新電力ランキングでは家庭向けで10位に入る(「楽天が電力本格参入に6年の歳月を要した理由」)。新電力ランキングの上位にはNTTグループのエネット(東京都港区)や東京ガス、ENEOS、大阪ガス、KDDI(auでんき)など大手企業が名を連ねる。その一角を占める楽天が新規受付を休止した影響は大きい。

 休止の理由は、昨年末からの日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場の価格高騰だ。1月上旬は連日、史上最高値を更新。全国24時間平均価格(システムプライス)は150円/kWhを超えるようになった。

 電気料金は、法人など規模が大きい契約者が安く、家庭など規模が小さいと高い傾向がある。ざっくり20~30円/kWhと考えると、電力の仕入れ値が販売価格の5倍を超えていることになる。電気を売れば売るほど、大量出血するほどの赤字になるわけだ。

 新電力が電力の仕入れのすべてを電力市場に委ねているわけではない。特に事業規模の大きい新電力は、市場高騰リスクを織り込み、相対契約などで価格をヘッジしている。それでも電力需要の増減の調整弁として電力市場を活用する。ある大手新電力幹部は、「電源調達の9割を相対契約などで固めて冬に備えていた。それでも1割の市場調達で大きな損失が出ている」と顔をしかめる。

 要因の1つには電力不足がある。新年3が日が明けてから連休明けまで、停電リスクが高い時期があった。この時、市場価格が高騰するのは理解できる。だが、電力の供給に余裕が戻っても、なぜか市場価格は安くならず高止まりを続けた。電力市場の価格は、電力の需給に必ずしも連動していないことが明らかになったのだ。

 現時点では、電力市場の異常な高騰の原因は分かっていない。1月後半になり、市場価格は落ち着きを取り戻しつつあるが、2月以降に再び高騰しないとも限らない。電力市場で何が起きたのかを早期に検証し、是正策を講じることが急務だ。

 電力市場はいまだ寡占市場であり、大手電力会社の入札行動が市場価格を決めている。発電量の8割は大手電力によるものであり、大手電力が圧倒的な売り手だ。また、大手電力が一定量、市場で電力を購入するように求めるルール「グロスビディング」により、買い札の半分以上が大手電力によるものだ。意図の有無とは関係なく、大手電力の行動が価格形成を左右することは明らかだ。

 電力自由化で先行する海外でも、電力市場の高騰は起きる。だがそれは、数時間や数日の高騰であり、1カ月も高騰が続くというのは異常だ。2016年4月の電力全面自由化から、わずか4年半。3.11で発生した東京電力・福島第1原子力発電所事故を契機に動き出した電力制度の抜本見直し「電力システム改革」は、まだ発展途上だ。過渡期に起きた今回の市場高騰によって、電力制度や市場設計の課題が露呈したと言わざるを得ない

「電力の地産地消」が新電力を追い詰める

 楽天のような大手新電力ですら、新規受付を中止する事態。いわんや資本力で大手に劣る中小新電力のダメージは、その比ではない。

 「既に債務超過に陥っている。資金調達に奔走しているが事業継続できるかわからない」「資金は今回の高騰で底を付く。この先数年は、新たなチャレンジはできないだろう」。新電力からはこんな悲痛な声が聞こえてくる。また、「1円でもいいから事業を買い取ってほしい」「事業撤退を検討しているので相談したい」という中小新電力の相談が大手新電力に寄せられている状況と聞く。

 そして今後、影響が顕在化しそうなのが、電力の地産地消をうたう地域新電力や自治体が出資する自治体新電力だ。秋田県鹿角市などが出資する「かづのパワー」は、既に事業休止を表明した。

 なぜ、地産地消が新電力を追い詰めることになったのか。そこには、FIT(固定価格買取制度)を活用した電源の存在がある。

FIT電源からの調達費用は「前月の10倍」

 現在、日本に存在する再エネ電源のほとんどがFITを利用している。自治体新電力や地域新電力が、エネルギーの地産地消を標榜した場合、地元のFIT電源から電力を調達するのは自然の流れだ。

 だが、FIT電源による電力の価格は、制度上、市場価格を適用するルールになっている、これは「FIT特定卸供給」と呼ぶスキームによるものだ。FIT電源で発電した電力は、一旦、地域の一般送配電事業者が買い取り、これを新電力が市場価格で送配電事業者から買う。

 ある自治体新電力関係者は、「12月中旬から1月中旬のFIT電源からの調達分の請求書が来たが、総額は前月の10倍だった」と明かす。

 再エネ電源の発電量は天候などによって変動する。こうした理由もあって、FIT電源からの調達は「発電した分をすべて買う」のが原則だ(電力業界用語で「出なり」と呼ぶ)。新電力側は、市場価格が高騰しても、契約中のFIT電源が発電する電力をすべて買い取るしかない。

 本来、再エネは燃料費がかからず発電コストが一定であるのが特徴だ。2050年に向けて再エネを増やして脱炭素化を進めていくには、電力市場でFIT電源を含めた再エネをどう取り扱うが重要になる。FIT特定卸供給の市場価格連動が政策目標に合致しているのかどうか、改めて検討する必要があるだろう。

 自治体新電力や地域新電力は、地域の脱炭素化を進める担い手となっているケースが多く、自治体によっては「地球温暖化対策実行計画」にその役割を明記しているケースもある。今回の高騰でこうした新電力が相次いで電気事業から撤退すると、地域の脱炭素化の推進は停滞してしまうだろう。

業界再編は必至、新電力の倒産などが顕在化するのは3月か

 現在、新電力事業に必要な「小売電気事業者」のライセンスを取得している企業は698社(2020年12月28日時点)。今回の市場高騰ダメ―ジがなかった事業者は、ほぼ皆無だろう。業界再編必至と言われるが、そのタイミングはいつなのか。

 複数の関係者が「インバランス料金の請求が来る3月に再編の動きか顕在化するのではないか」と読む。

 今後、新電力には、電力調達費用や託送料金、インバランス料金などの支払いタイミングがやってくる。相対契約で調達した電源の支払いは契約でそれぞれ定めているが、JEPXでの調達分の支払いタイミングは早い。JEPXは、あらかじめ預託金を入れておいて、約定の2日後に支払う。

 他方、託送料金(電力網の使用料金)は約1カ月後、インバランス料金は2~3カ月後に一般送配電事業者に支払う。

 電力は貯めることができない。ある瞬間に、発電した電力と消費した電力を一致させなければ停電のリスクが高まる。このため、小売電気事業者それぞれが、顧客が消費する電力量と調達する電力量を一致させることが原則だ。この同時同量の原則を満たせなかったときに支払うペナルティがインバランス料金だ。

 JEPXは12月下旬以降、玉切れの状況が続いてきた。新電力が同時同量を果たそうにも、電力市場に玉がない(「電力市場の価格高騰要因を公開データから読み解く」)。調達不足となった量に対して、インバランス料金を支払うことになるため、平常時に比べてインバランス料金の支払額は相当、大きくなることが予想される。

 新電力再編のXデーまで、あと2カ月足らず。電力自由化の行方は霧の中だ。