2030年度の温暖化ガス削減目標はなぜ46%になったのだろうか。積み上げでは到底、46%にはたどり着けない。これまでの前提条件を変え、さらに菅首相の力業でひねり出したというのが実態だ。一種の“騒動”となった46%削減の内幕と影響を詳報する第2回(「『2030年46%削減』が招く、原子力復権の新電源構成」)。官邸主導の「46%削減」が公表されるまでの数カ月を追った。

(出所:Rodrigo Reyes Marin/Zuma Wire/共同通信イメージズ)

 菅義偉首相が温暖化ガス削減目標を大幅に引き上げた動機は、急落した内閣支持率にある。新型コロナウイルスの感染拡大に後手の対応を続けた結果、支持率は政権発足直後の60~70%から、わずか3カ月あまりで30%台に急落した。さらに菅首相の長男らがからんだ総務省の接待疑惑が追い打ちをかける。

 「長期政権もあり得る」「苦労人宰相」などともてはやす報道は影を潜め、「もうもたない」「政局になる」などと政権末期のような話も飛び出すぐらい変容を遂げた。

 「目がうつろで生気がない」。菅首相は日に日に元気をなくしていった。国会答弁でもボソボソと話し、記者会見をしても質問と答えがかみ合わず短い時間で切り上げていた。

 そんな中、今年1月に菅首相はある抜てき人事を断行する。菅事務所の秘書が務めていた首相の政務秘書官に、財務省出身の寺岡光博氏を充てたのだ。寺岡氏は官房長官時代の菅首相の秘書官で、「気心が知れた人物」(官邸関係者)だ。

 事情通によると、「寺岡氏はじめ官邸内は、温暖化ガス削減目標を大幅に引き上げれば米国の印象もよくなり外交戦略としての得点になる。支持率の向上、つまりは政権浮揚につながると本気で思っていた」という。何かと抵抗する経産省を抜きにして、政権浮揚につながるグッドニュースをけん引してしまえという皮算用だ。

 菅首相の本格的な外交デビューになる日米首脳会談で、広くアピールできるという「困ったときの外交頼み」を実現したかったわけだ。

「気候変動担当相」騒動

 その「困ったときの外交頼み」の足がかりとして、首相の意向を受けた寺岡氏が実行に移した組織改編が一悶着を起こす。気候変動担当相の設置と、実働部隊である気候変動推進室、官邸に設置された有識者からなる推進会議の3本柱である。

 この構想は3月上旬に実現するが、発表直前まで、関係する経済産業省や環境省などには秘せられていた。

 当初の構想では担当相が2030年度の温暖化ガス削減目標、カーボンプライシング、石炭火力問題を一手に担い、実働部隊として推進室の官僚を動かし、科学的な事実を基にした考え方を有識者会議でまとめるというものだった。そして、気候変動担当相は小泉進次郎環境相が兼務することが前提となっていた。

 しかし発表直前に経産省に漏れ伝わると、梶山弘志経産相はじめ同省は激怒した。経産省の中核とも言える所掌を、事前調整なしに奪われるのであるから当然であろう。

 梶山経産相は笑いながら「俺も怒るときは怒るからね」述べ、その姿を目の当たりにした経産官僚は背筋が凍ったという。すぐさま経産省幹部を中心に猛烈な巻き返しが始まった。ある幹部は関係省庁との会議で怒りをあらわにし、ある幹部は政界有力者に根回しをした。

 猛烈な抵抗の結果、新設する気候変動推進室に経産省、環境省からそれぞれ5人以上の専任職員を派遣するという構想が、それぞれ2〜3人に減員。気候変動担当相は小泉進次郎環境相が兼務したが、全てを所管せずに単に肩書きだけのポストになった。

 有識者会議も首相直轄で、気候変動担当相が仕切るというものだったが、官房長官直轄に格下げした上に、仕切りも加藤勝信官房長官がすることになってしまった。官邸の推進室もかろうじて専任の職員を置いたものの、「直接的な業務はなく、何をやるんだかわからない」(官邸筋)と宙に浮いた形に変貌した。

 気候変動担当相を兼務した小泉環境相は、業務初日に柿ピーを置いて推進室の職員らを激励したというが、室内はなんとも言えない微妙な雰囲気が充満していたという。有識者会議の人選も、大手自動車メーカーなどが「関わりたくない」と会議への参加を拒むなど難航するはめになった。

 官邸主導を目論んだ気候変動対策は、早々に頓挫したのである。

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