9月に公表された初回容量市場価格は1万4137円/kWと、大方の予想を上回る高値を付けた。「経過措置」を踏まえた減額後でも平均で9534円/kWと、支払いを課される小売電気事業者の負担は依然大きい。だが、この価格に妥当性はどれほどあるのか。容量市場価格を金融理論から分析し、今回の価格が本来価格とかけ離れていることを論証する。
 2015年の日経エネルギーNext創刊時からの名物コラムが復活。JEPX便りの過去記事は 記事末尾をご参照ください

(出所:Adobe stock)

 かつて、本誌コラム「JEPX便り」は、本格的に発展し始めた日本卸電力取引所(JEPX)において、価格高騰など市場参加者が遭遇することとなった数々の想定外の出来事を取り上げてきた。情報が限られる中、少しでも市場参加者の理解の助けになるよう誌面を割いた。

 その後、いったん筆を置き、市場や制度の展開を見守ってきた。その間、市場の名を借りた制度が実働段階に入った。容量市場はその1つである。

 容量市場については以前、JEPX便りでも取り上げた。中でも2つの記事で、同市場の性格についてより詳細な解説を試みた。

「廃棄すべき発電所を温存する"新市場"」(2017年10月13日)

 卸電力取引所と発電事業が共存するためには、市場水準と整合性のある固定費のレベルがあり、その中で発電事業と市場機能の共生の可能性や意義を考えた。

「電力の容量市場は本当に国民の利益になるのか」(2018年1月22日)

 さらに、経済学が説く「社会的厚生」の観点から国民の利益としての容量市場のあり方を考察した。

 今回は初回容量市場の結果を受けて、約定した価格が①で解説したアプローチに照らして整合性のとれる結果と言えるのかどうかを検証してみたい。


価格とボラティリティで決まる「オプション価値」

 ①の記事について簡単に振り返っておきたい。

 容量市場とはそもそも何なのか。将来の発電能力の確保と説明されることが多いが、これは金融取引で言うところの「オプション価値」を決めることに相当する。

 オプション取引とはデリバティブ(金融派生商品)取引の一種で、将来のあらかじめ定められた期日や期間に、現時点で取り決めた価格(金融用語で「行使価格」という)で売買する「権利」を売買する取引をいう。

 例えば、行使価格を12円/kWhと定めて買う権利(コールオプション)を買い付けたとすれば、買い手は将来、市場価格が12円/kWh以上になったときに12円/kWhで原資産(電力市場で言えば電気)を買い取れる。

 オプション価値はあくまで派生商品であって、原資産の価格に依存して理論価格が決定される。電力の世界に当てはめれば、容量市場価格は本来、卸電力市場の水準に応じて決まるものだ。

 市場水準といえば、市場価格をイメージする方が多いと思われるが、市場が発するシグナルは価格だけではない。もう1つの大切な市場機能は、価格変動の程度を示すことだ。金融などでいうボラティリティである。

 ①の記事では、発電能力の価値は電源の発電コストである限界費用の水準に対して、市場価格水準とボラティリティで決まることを解説した。両者の関係を典型的に表したのが、グラフ1~4の4つのグラフだ(今回の記事に合わせて、当時掲載したグラフを一部修正)。

 理論的には、市場価格(kWh価値)が限界費用を上回った部分の積分値(限界費用を上回った市場価格と限界費用の曲線で囲まれた面積の合計)がkW価値に相当する。

 限界費用が高い電源のkW価値は小さく(グラフ1)、限界費用が低い電源のkW価値は大きい(グラフ2)。市場価格が上昇すればkW価値も高まる(グラフ3)。市場のボラティリティが小さければkW価値は小さい(グラフ4)。

限界費用が高い電源のkW価値は小さい
グラフ1●kW価値の考え方(限界費用が高いケース)。市場価格が限界費用を上回った部分の積分値(限界費用と限界費用を上回った市場価格の曲線で囲まれた面積の合計)がkW価値に相当する(出所:日経エネルギーNext電力研究会)

限界費用が安い電源のkW価値は大きい
グラフ2●kW価値の考え方(限界費用が低いケース)(出所:日経エネルギーNext電力研究会)

限界費用が同じでも市場価格が上昇すればkW価値は高まる
グラフ3●kW価値の考え方(市場価格の水準が上昇したケース)(出所:日経エネルギーNext電力研究会)

市場のボラティリティが小さいと相対的にkW価値も小さくなる
グラフ4●kW価値の考え方(市場価格の変動が小さいケース)(出所:日経エネルギーNext電力研究会)

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら