同じ地域に住む需要家同士が電力を売買するP2P(Peer to Peer)取引をベースにしたLEM(Local Energy Market:地域エネルギー市場)の実証プロジェクトが世界で活発化している。牽引しているのは、ブロックチェーンを活用して、個人間の小規模で膨大な取引をセキュアかつトレーサビリティを確保して実行するプラットフォームを開発しているスタートアップだ。小売事業者などに対してSaaS(Software as a Services)でプラットフォーム機能を提供するなど、新たなビジネスモデルを模索し始めた。日経BP総研が12月に発刊する「世界エネルギー新ビジネス総覧」から最新事例をご紹介する。
米国初の商用ベースの「地域エネルギー市場」を構築へ
ブロックチェーンを活用した電力取引プラットフォーム開発会社の米LO3 Energyは2019年11月20日、米国バーモント州の小売電気事業者のGMT(Green Mountain Power)と共同で、GMTの顧客向けにLEMを構築し、顧客同士で電力を取り引きするサービスを開始すると発表した。
当面、スキーリゾート施設、クラフトビール工場、酪農家など限定されたGMTの顧客向けに提供し、その後広く、一般家庭や商業施設などに広げていく計画である。「米国のエネルギー業界にとって画期的な瞬間だ」とLO3 EnergyのCEOであるLawrence Orsini氏は語る。
GMTはバーモント州を拠点とし、顧客向けに再生可能エネルギー由来の電力を提供することに注力している。既に供給電力の60%が再エネとなっており、2030年までに100%に上げることを目標にしている。同社は、水力発電所や大規模太陽光発電所(メガソーラー)、風力発電所などの再エネ発電所を保有すると共に、他社からPPA(電力販売契約)によって再エネ電気を調達している。
しかし、再エネ100%を達成するためには、地域の需要家が持つ小規模な分散電源を活用する必要があり、LEMはそのために重要な役割を果たすと見る。
LO3 Energyは、2016年に世界で初めて、ニューヨーク市ブルックリンでブロックチェーンを活用したP2P取引の実証プロジェクト「Brooklyn Microgrid」を実施。そこでの成果を基盤として、LEM向けプラットフォーム「Pando」を開発し、小売電気事業者にSaaSによって提供するビジネスモデルを考案した(図1)。GMTに対しても「Pando」を供給するという。
LEMプラットフォームでは、太陽光パネルなどを保有した売り手であるプロシューマーと買い手であるコンシューマーの双方にアプリケーションを配布し、画面上で電力取引を可能にする(図2)。
コンシューマーはビッド(買い手の希望価格)を提示し、LEMプラットフォームのアルゴリズムによって売りと買いをマッチングさせる。同アプリでは、LEMにおける市場取引価格や取引記録を確認すると共に、毎日いくらまで購入するかや、上限予算も設定できる。プロシューマーも売った電力の取引記録や収益額を確認できる。
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