「ピア・ツー・ピア(Peer-to-Peer 、P2P)電力取引」をはじめとする新しい電力ビジネスを日本で実現するための法制度議論が本格化している。経済産業省は2018年10月に「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」を開始。2019年7月までに合計8回の会合を開催し、論点を整理した。具体的な制度整備は新設する「持続可能な電力システム構築小委員会」で検討する方針だ。そこで、日本の現行法制度の下でP2P電力取引が、どこまで実現できるのか検証してみた。

 P2P電力取引とは、従来は電力会社が需要家に一方的に電気を供給していたのに対し、太陽光発電や蓄電池など分散型エネルギーリソース(DER)を所有している個人・法人が別の需要家に電力を供給し、取引する方法である。従来の「電力会社対需要家」に対し、「需要家対需要家」の取引であることからP2Pと呼ばれ、DERが普及した世界での利用が提案されている電力流通の新しい方法である。

 通信でのP2Pは中央管理者がいないネットワークで、対等な参加者同士が直接通信することを指すが、電力での「P2P」はそのように厳密に使われていない。小売電気事業者が仲介する「需要家対需要家」の取引もあれば(本稿では疑似P2Pとする)、売り手と買い手の紐付けのみをP2Pと呼ぶこともある。また、必ずしも1対1の直接取引ではなく、P2P取引分に相当する電力を集約し、需要家に配分するケースもある。その実現方法や使用する技術は多様である。

 世界的にはFIT(固定価格買取制度)などの再エネ導入支援策が縮小・廃止されていく中で、再エネ投資に新たなインセンティブを与える仕組みとして提案されることが多い。日本においては、特に2019年11月以降に生じる卒FIT電源がP2P電力取引の有力な電源となりそうだ。

 P2P電力取引はスウェーデンの大手電力会社バッテンフォールがオランダで手掛けている「PowerPeers」など、実ビジネスとして運用されている事例は非常に限定的だ。実証事業は花盛りで、LO3エナジーが実施した米国ブルックリンの実証をはじめ、世界各地で行われている。

 P2Pの価値は世界的にも十分に実証されているとは言い難く、これから「発見」されるものが多いと認識している。再エネ投資のインセンティブとして働くほか、エネ庁の研究会では、社会コスト削減や需要家の選択肢拡大、取引参加者の経済的メリット、再エネ電力の地産地消の推進ツールなどの可能性が指摘されている。

 このほか、地域の住人や事業者の関係性を構築するツールとして使われている事例や、同じ地域に住む家族など特定の需要家間の取引を可能にすることでユーザーに価値提供を試みる事例もある。P2P電力取引そのものは、あくまで電力取引の形態の1つであり、事業者が新たなサービスを行うベースだ。

 いま世界中でスタートアップ企業を中心に、電力取引プラットフォームの開発が行われている。これらは、P2P電力取引を行うために、従来のシステムとは別のプラットフォーム上で発電と需要をマッチングさせるものである。ただし、これがP2Pの唯一の方法ではない。

 顧客を抱える既存の電気事業者がプラットフォームを運営するケースもあるが、プラットフォーム運営に特化した事業者が登場することも考えられる。

エネ庁の論点整理はグローバルで見ても有用

 P2P電力取引といってもその実現方法は多様であり、制度との関連も複雑である。そんな中、エネ庁が2019年5月10日に開催した「プラットフォーム研究会」の第7回会合で提示した論点整理は、P2P電力取引の形態を広く想定した上で細かに分類している。このようなP2P電力取引の整理方法は世界的にも類を見ないものであり、具体的なビジネスを見通すうえで非常に有用だ。

図1●P2P電力取引の分類
(出所:経済産業省「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」第7回・資料3)

 エネ庁はP2P取引を図1にある④~⑪の8つの類型に分類(研究会資料ではこれらに加えてアグリゲーターを介した取引を①~③の3類型で整理)。そのうち5類型は制度変更なしに実施可能だ。まず、既存の送配電網を使わず、自社で構築した送配電ネットワーク(自営線)やEVを使うケース。図1の類型分類「非系統型」の④⑤⑥がこれに当たる。

 自営線を維持・運用するため、「特定送配電事業」の届出を行い、その中で取引する方法(類型⑥)や、高圧一括受電を行っている集合住宅内の受電点の二次側(受電設備から各需要家側)で行う方法がある(類型④)。さらに、EV(電気自動車)の充電や、EVに貯めた電気を販売するビジネスも法制度の対象外であり、現行制度の下で実現できる(類型⑤)。

 これらのケースでの法制度的な課題は、特定送配電事業者の届出を除くと、計量法の要件を満たさないといけないことだ。kWh単位で電力を取引しようとすると、計量法が定める「取引証明用計器」として検定を受けた電力量計が新規に必要となるケースもあり、事業者のコストがかさんでしまう。

 これはP2P電力取引に特有の問題ではなく、新しい電力ビジネス共通の課題だ。例えば、EVの充電、V2X(EVのバッテリーを使ったビジネス)、太陽光発電の自家消費分の証書化、機器ごとの課金を伴うサービス、定置式蓄電池の充放電によるビジネスなどは、いずれも計量法の要件を緩和すれば事業化しやすくなる。

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