東京オリンピック・パラリンピックの会場では、燃料電池車(FCV)や燃料電池バスが走り、選手村では住宅用燃料電池システムがお湯と電気を供給する――。盛り上がりを見せる「水素エネルギー」は、一過性のブームではない。しかし、水素社会の扉を確実に開くには、これら「燃料電池」だけでは力不足だ。それでは、次に期待されるけん引役は何なのか。

福島県浪江町に完成した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」

 2019末から今春にかけ、水素社会の訪れを告げるトピックスが相次いだ。

 2019年12月、川崎重工業が神戸工場で世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式を開催した。また、2020年3月には、福島県浪江町で出力20MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を併設した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の開所式が行われた。

 「すいそ ふろんてぃあ」は、まずオーストラリアから神戸市に水素を運ぶのに使われる。ビクトリア州の炭田近くで褐炭をガス化して水素を製造、神戸ではコージェネレーション(熱電併給)システムの燃料にする計画だ。

 浪江町のFH2Rは、太陽光発電の電力を使った水の電気分解により水素を製造する世界最大の施設で、東京オリンピック・パラリンピック会場で運用する燃料電池車(FCV)などに水素を供給することになっている。

 こうした水素エネルギーを巡る盛り上がりに対しては、「これを機に水素インフラの普及が加速する」との期待感とともに、「水素ブームは、国が大規模な補助金で後押しするオリンピックまで」との冷ややかな見方があるのも事実だ。

 これに関しては、今年4月3日付けの日経エネルギーNextのコラムで、「水素エネルギー離陸説は本物か、水素懐疑派の根強い疑問に答える」とのタイトルで、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの高橋浩明氏が考察している。

 高橋氏によると、水素懐疑論者は、「現時点で水素コストは高く、燃料電池以外に用途が見当たらない」などの点を課題にするが、「再生可能エネルギーの変動出力を補完する機能や、カーボンリサイクル(CO2の分離回収と再利用)での材料利用など、水素の持つ多面的な役割を見逃している」と指摘している。

 同氏の論考は、水素エネルギーの現状を適切に分析しており、「中長期的な視点でのビジネス機会を探っていくべき」との指摘は的を射ている。

 ただ、そうした水素を巡る世界の動きがもはや停滞することがないとしても、こと国内に限ってみると、オリンピックに向けて水素関連予算が膨らんでいた面も否定できず、反動も予想される。そこで、「オリンピックの次に期待される水素社会の牽引役」について考えてみたい。そのヒントになるイベントが今年5月15日にオンラインで開かれた。

 「水素エネルギー社会の実装とグローバル連携」と題したシンポジウム(主催・日本経済新聞社/日経BP)で、エネルギー政策の専門家として、国際大学大学院の橘川武郎教授、オーストラリアの水素プロジェクトに関わってきたリチャード・ボルト氏(Nous Groupプリンシパル)のほか、水素インフラに関連した企業幹部が参加し、水素社会の実現に向けた課題などを議論した。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら